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◆ イラク日報に 「戦闘」 何が悪い ―佐藤正久激白

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イラク日報に戦闘何が悪い
参議院議員
元自衛隊・イラク復興業務支援隊長
佐藤正久 激白

2018.05.20
(http://www.sankei.com/premium/news/180520/prm1805200004-n1.html )

2004年3月、イラク南部サマワの仮宿営地に到着した陸上自衛隊の車列(共同)
2004年3月イラク南部サマワの仮宿営地に到着した陸上自衛隊の車列共同



ずさんな管理残念



陸上自衛隊のイラク派遣の際の日報が、陸自内部で発見されてから大臣に報告されるまで1年を要し、かつ、現時点(4月18日現在)で派遣期間の約4割強の435日分しか見つかっていないという今回の事案は、イラクの現場で日報を書いて送った元隊長としては非常に残念です。



日報とは日々の自衛隊員の活動をまとめて送ることによって、上級部隊の指揮官や防衛大臣が状況判断を行うための1次資料です。

もう少し長い目で見ると、次に現地へ派遣される部隊の教育・訓練のための資料にもなり、さらに長い目で見れば全く別の任務の際にも部隊の編成や携行装備品を検討するための資料にもなるものです。



イラクであれば宿営地に迫撃砲弾が着弾したり、ロケット砲が宿営地のコンテナを貫通したりといった、安全確保の上で貴重な情報も入れています。

文字通り汗を流し、体を張ってまとめたものもあります。

イラク・サマワに居て、物資などもそう簡単に手に入りませんから、部隊が現在持っている装備品の状態や隊員の健康状態も書き込んで、場合によっては日本からの支援を求めたりするわけです。

そのために毎日、未明までかけて日報を作成していました。



少なくとも、教訓を集める陸自の研究本部では過去の日報も電子データで残っているかと思っていたのですが、現在分かっている限りでは“歯抜け状態”でしか残っていないわけで、管理がずさんだったことは残念としか言いようがありません。



陸上幕僚監部や派遣部隊には、日報の内容を精査してまとめた抜粋的なものが残っていればいいのかも知れません。

しかし研究本部にある「教訓センター」であれば、公文書管理法での「保存期間1年未満」という規定にとらわれず、もっと長期間の指定にして保存しておくべきではないかと思います。



南スーダンPKOなどの日報は現在、現地部隊が作成して東京へ送ると「陸自指揮システム」の掲示板に掲載されます。

それは隊内のかなりの人間が閲覧できます。

日報は活用されることが最も重要であり、あわせて情報公開法や公文書管理法に基づくきちんとした管理も必要です。

活用と管理、その両方が大事であって、今は管理のあり方に焦点があたっていますが、日報の管理が目的化してしまって活用が疎かになるようでは本末転倒です。



あまり管理だ、情報公開だ、ということが強調されると、担当者にはどこまで開示していいのかの判断や黒塗り作業など、大変な負担がかかります。

今、防衛省への日報の開示請求は年間約5千件あるそうですが、開示のための作業は本来業務ではなく追加業務ですから、国会答弁の作成が終わって未明になってから情報公開の対応をする、といったことにもなるわけです。



そうした結果、情報公開の負担を軽減するために日報の内容が「薄くなってしまう」恐れがあります。

本当に必要な情報を書き込まないようでは本末転倒であり、現場はこれまで通り萎縮せず、現地の状況を的確に伝えてもらいたいと思います。

そうでないと防衛大臣や統幕長が的確な状況判断ができませんし、ひいては自分の部隊にも悪影響を及ぼしますから。



今の情報公開法、公文書管理法の下では、海外派遣部隊の日報も上記の法の対象文書となる、という現実があります。

その情報が公開される場合には「安全に関わる事項は非開示でもよい」とされていますので、隊員の安全に関わる部分はきちんと黒塗りしなければならないでしょう。



これは個人的な意見ですが、現在活動中の日報と、活動が終わった後の日報とでは取り扱いに差があっていいのではないかと考えています。

中谷真一衆院議員が国会で質問していたように、活動中の日報というものは一歩、開示の仕方を間違えれば自衛隊員の命が危険にさらされかねません。

一方で活動が終了した日報については、国会や国民による検証も大事ですから、次以降の活動に影響が出ない範囲内でしっかり開示することが大事だと思います。



この2つの日報の差別化は今後の課題で、場合によっては法改正が必要かも知れませんが、実現すれば派遣された自衛隊員も安心して日報を書くことができるはずです。

他国の場合も、活動中の日報を公開するという事例はほとんどないはずですよ。



戦闘戦闘行為



このたび、イラク派遣の日報が公開されました。

もちろん、次の派遣活動に影響があるなどの理由で黒塗りになった部分はありますが、それ以外の部分は国会で議論・検証し、教訓としてもらえればと思います。

ただ、今回見つかったのは2年半の活動のうちの435日分ということで、歯抜け状態になっています。

まだ10年と少し前のことですから、しっかりと全部が保管されていても良かったのではないかと、私は思います。



公開された日報には「戦闘が拡大」といった文言もあり、新聞各紙でも大きく報じられましたね。

しかし「戦闘」と、国会答弁などで出てくる「戦闘行為」とは違うのだ、ということをきちんと押さえておく必要があります。



「戦闘」というのは幅の広い概念です。

小グループ同士のぶつかり合いや部族同士の争いを「戦闘」という人もいれば、国と国との衝突までも「戦闘」といわれます。

一方、今の憲法9条の下で問題とされるのが「戦闘行為」で、これは国または国に準ずる組織が武力衝突するものを指し、国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為を言います。

そういう「戦争行為」のある場所に、自衛隊が国際貢献で行くわけにはいきません。

私の知る限り、そうした「戦闘行為」はわれわれが派遣されたイラク南部のサマワではありませんでしたし、国際性、地域性、計画性、継続性を持った国に準ずる組織もいませんでした。



国会でも議論されているように、PKOの派遣先で国や国に準ずる組織による「戦闘行為」があれば、自衛隊は撤収するということになりますが、部族による小競り合いレベルの「戦闘」であれば一旦、活動を休止・中断して戦闘が収まったら再開する、ということもできるわけです。

即ち、サマワは危険がなかったわけではありませんので、民間にかわり自衛隊が派遣されて人道復興支援を行いました。

日報を読めば、自衛隊がいかに危険を回避しながら任務を遂行したかがわかると思います。



ちなみに今回、435日分の日報で約1万5千枚でしたが、日報の分量は部隊の特性によって違ってきます。

例えば空自で単なる輸送任務なら、報告事項はそれほどないかも知れません。

一方、陸上で住民もいる中で活動するとなれば、報告事項は多くなります。

本日、どんな医療活動、給水、道路や学校の補修をしましたとか、加えて明日以降はこんな活動をする予定ですとか、さらには前提となる治安状況、一緒に仕事をしているオランダ部隊や英国部隊の状況も報告に入れておかないと、上級部隊は的確な判断ができません。



私がサマワにいたときは、だいたい朝の8時くらいから宿営地外での支援活動を開始していて夕方5時頃に宿営地に戻ってくるわけです。

それから食事や風呂の後に、一日の活動及び明日の予定についての会議を開く。

そうして全体の状況を把握した後に日報を書き始めるわけで毎日、寝るのは深夜2~3時という状況でした。

それくらいしてキッチリ日報にまとめて報告しないと、大臣もきちんと国会で答弁できない、ということで眠い思いもしながら日報をまとめていたのです。



自衛隊が反省すべき点は



今回、私自身の自衛官時代の反省も踏まえて指摘する必要があると思うのは、情報公開法や公文書管理法、あるいは国会の動きについて、現場の自衛官の意識が低いことです。

自衛官は朝から晩まで教育・訓練に打ち込んでいますから、どうしても国会の動きなどには詳しくありません。

私自身がかつて陸幕広報にいたときに問題になったのですが、多くの自衛官の間ではパソコン上のデータが行政文書に当たるのだという感覚がありませんでした。

今回も同様に、外付けハードディスクがまさか行政文書に当たるとは思わなかった、という話が出ていますね。

文書というからには紙だろう、と。

昔からそういう傾向はありました。



公文書管理の面で言えば、南スーダンの日報が掲示板上にあって4万人がアクセスできる、というときに、例えば地方の連隊長が日報をダウンロードしたとします。

そうすると、ダウンロードした日報は単なる個人データではなく、行政文書になってしまうのですが隊員の間で、そうした意識が高いとは言い難いのが現状です。



昨年、南スーダンの日報が問題になっているのはニュースを見て知っていた隊員も多かったはずですが、一方でイラクの日報も国会で問題化していたことについては、ほとんど意識されていなかったと思います。

私が知る限りでイラクの日報について質問された議員は3人ほどだと聞いていますが、テレビや新聞でもイラク日報は南スーダン日報と違ってあまり取り上げられておらず、多くの隊員がイラク日報を上級部隊に報告する重要性を認識していなかった可能性がありそうです。



こうした、文書管理の重要性に関する意識が低い、これは自衛隊員が改善すべき点です。

その上で今回、稲田朋美元大臣の「イラク日報を探せ」という指示を受けた事務官が、下に対して明確な指示を出さなかった。

指示が緩かっただけに、捜索も緩くなってしまったのではないかと思われます。



このあたりは現在、まさに調査中ですが、これまでの流れを見ていると以上のような点が問題だったのではないかと思えています。



■ 佐藤正久氏

昭和35年、福島県生まれ。防衛大学校卒業。

国連PKOゴラン高原派遣輸送隊初代隊長、イラク復興業務支援隊初代隊長、第7普通科連隊長兼福知山駐屯地司令などを歴任した。

平成19年に退官し(退官時は1等陸佐)、参議院議員に初当選。防衛大臣政務官などを務めた。

著書に『イラク自衛隊「戦闘記」』(講談社)など。



国際連合安全保障理事会決議1483
(Wikipedia )

2003年 5月 22日に『国際連合安全保障理事会』で採択された
「イラク・クウェート情勢に関する決議」

参加国

「アイスランド」「アゼルバイジャン」「アフガニスタン」「アメリカ合衆国」「アルバニア」「アルメニア」「イギリス」「イタリア」「ウズベキスタン」「ウクライナ」「エストニア」「エルサルバドル」「オーストラリア」「オランダ」「カザフスタン」「韓国」「ジョージア」「シンガポール」「スペイン」「スロバキア」「タイ」「チェコ」「デンマーク」「ドミニカ共和国」「トンガ」「ニカラグア」「日本」「ニュージーランド」「ノルウェー」「ハンガリー」「フィリピン」「ブルガリア」「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ」「ポルトガル」「ホンジュラス」「マケドニア」「モルドバ」「モンゴル」「ラトビア」「リトアニア」「ルーマニア」

(※この中で軍隊ではないのは日本の自衛隊のみ)


イラクにおける
人道復興支援活動及び安全確保支援活動の
実施に関する特別措置法

自衛隊イラク派遣
2003年 8月1日
(Wikipedia )



※ この記事は、月刊「正論6月号」から転載しました。



(Amazon )

■ 6月号 主なメニュー■

【特集 安倍“悪玉”論のいかがわしさ】

・モリカケ問題でほくそ笑むのは誰なのか  防衛大学校名誉教授 佐瀬昌盛

・秋で正論創刊45周年 創刊号の名論文も同時掲載!  猪木正道「“悪玉”論に頼る急進主義」

・あなたもバッシングされる? 世にはびこる“悪玉”論の恐怖  大和大学専任講師 岩田温 

・朝日新聞“倒閣”記者ツイッターを告発する  産経新聞客員論説委員 石川水穂

・ピント外れの国会審議 もう1つのモリカケ問題  元財務官僚 山口真由 

・こんなことで憲法改正を潰してはならない  杏林大学名誉教授 田久保忠衛

・ジャーナリズムが民主主義を滅ぼす  弁護士 高井康行 

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