パトリック・J・ブキャナン著/河内隆弥訳
超大国の自殺
― アメリカは、2025年まで生き延びるか? ―
2012年11月5日 第1刷発行 幻冬舎
第1章 超大国の消滅
(8) 社会主義国アメリカ
サンドバーグ
(訳注:カール・サンドバーグ、1878 ― 1967。アメリカの詩人)
の 「霧」 ではないが、社会主義は、猫のように忍び込んで来る。
生涯を通じて連邦政府の蚕食
(さんしょく=端から次第に奥深く他の領域を侵略すること)
と戦った、ガレット・ガレット
(訳注:アメリカのジャーナリスト、1878 ― 1954)
の 1938年に出版された 『革命があった』 の書き出しは、
次の通りだった。
「来たるべき革命をかわすことが出来ると、
まだ思っている者たちがいる。
しかしそれは間違った見方である。
自由の歌を歌いながら、革命は大恐慌の夜、訪れたのだ」。
ガレットは体制内の革命について記述する。
世界から見てアメリカは同じ国のようである。
しかし中から見ると、と彼は言う。
もとに戻り得ない革命が起こった。
それはニューディールの前のアメリカ、
いまのアメリカ、
建国の父たちが定めたコースから
どれほど隔たったかを見極めることの出来る、
我々が向かっているこれからのアメリカを眺めてみるだけで、
充分、納得出来る。
税金がアメリカ革命を推進した。
我々は政府の役目を極端に制限することを信奉する、
税金嫌いの国民だったからだ。
最良の政府は、最小の統治を行う、というのがアメリカの格言だった。
1929年 3月、クーリッジがホワイトハウスを去った時、
合衆国政府は GNP (“国内” 総生産) の 3% の支出をしていた。
いまは?
オバマの第一期予算は GDP (“国民” 総生産) の 4分の1 を費消した。
財政不足は GDP の 10分の1 だった。
2010年度会計の不足も、ほぼ同様の大きさである。
オバマは高所得のトップ 2% について
ブッシュの減税を廃止し、
最高税率を 40% に引き上げようとした。
これは州や地方自治体の所得税を含まない。
カリフォルニアやニューヨークでは、
なお 10% または 12% を徴収する。
またこれは社会保障と医療保険の給与税部分も含まず、
大部分の賃金、俸給の再考 15.3% までが加えられることとなる。
半額は労働者の拠出となる部分だからである。
タックス・ファンデーション
(訳注:1939年設立のワシントン DC を本拠とするシンク・タンク)
は、ニューヨーク在住者は合計して 60% の所得税を納めている
と、推定している。
それに最高 8% の売り上げ税、
固定資産税、ガソリン税、事業税、酒類、煙草など、
まもなく始まるハンバーガー、ホットドッグ、ソフトドリンクなどの
「罪悪税群 (シン・タクシズ)」 が加わる。
「税金難民がニューヨークから逃げ出しを図る」
は、ニューヨーク・ポストの見出しで、
「2000年から 2008年の間に 150万人がニューヨーク州を出て行った」
「この国最大の州離れ移民である」
と伝えた。
マンハッタンから離れた者の年収は、平均 9万 3千ドルだったが、
入って来た者の平均は7万 3千ドルだった。
2001年のマリスト・ポール
(訳注:アメリカの世論調査機関)
の調査は、30歳以下のニューヨーク居住者のうち、36% が
「5年以内に街を出たい」 と言っている結果を伝えた。
その 3分の2 は、「高い税金」 を理由にあげた。
ジェファーソンは 『独立宣言』 において
ジョージⅢ世を、
「新しい部局をやたらに設け、我が人民を苛 (さいな) み、
その財産を食い尽すために役人の一群を送り込んで来た」
暴君として告発している。
今、アメリカの統治者が
アメリカ人に対して行っていることと比べると、
キング・ジョージが印紙条例や茶税で行ったことは、
何だったというのだろうか?
2007年の IRS (内国歳入庁) の数字を受けて
タックス・ファンデーションは、
アメリカで、
誰が所得税を支払い、
誰が払っていないか、
を分析した。
納税者 所得税支払のシェア
トップの 1% 44.42%
トップの 10% 71.22%
トップの 25% 86.59%
トップの 50% 97.11%
ボトムの 50% 2.89%
最もハードワークをこなし、生産性をあげているアメリカ人が
血を流している。
そしてオバマは 「ただ乗り組」 を増やそうとしている。
2007年、給与所得者すべての 3分の1 が、
連邦所得税を免じられていたのみならず、
2500万人が、財務省から勤労所得の税額控除を受けていた。
現在 (2011年)、州の半数が、
所得税を払わない階層に小切手を送っている。
EITC (勤労所得税額控除) 制度がどれほど大きいものか?
元フォーブスとナショナル・レビューの経済アナリスト、
エドウィン・ルーベンスタインが述べる。
勤労所得税控除 (EITC) は、
1975年、所得税法の一部となってから、
合衆国の諸制度の中で、最高の現金移転政策となった・・・。
EITC は
伝統的な福祉政策・・・
およびフード・スタンプ政策
(訳注: 低所得者層への食糧費補助制度)
を、合わせたものを小さく見せるものとなった。
1985年から 2006年にかけて、
EITC の支払いは、21億ドルから、444億ドルに膨張した。
またはこれが、2014% の上昇、と言えば、
あっと驚く数字となる・・・。
EITC の申請者数は、640万人から、2300万人に増加した。
税金を払わない者への、
キャッシュで払う税額控除、
これが厚生というものである。
す、すごい皮肉!! だけど現実だわねぇ・・・
EITC のお陰でとんでもないことに気づかされた。
税政策センターによれば、合衆国の給与所得者の、
「(47% が)
2009年度、連邦所得税をまったく支払わないだろう。
彼らの所得は低すぎるか、
納税義務を免れられる税額控除、減額、免除措置の
対象に該当している」。
2011 年 5 月、議会の合同税制委員会が、
この数字を、上方に、見直した。
2009年、
合衆国全体のまるまる 51% の世帯が、
連邦所得税を支払っていなかった。
今、国民の半数が、
残り半数の納める税金に、
“ただ乗り” しているのである。
「自由な社会」 は、「受給資格の国」 となった。
みな、医療保険、住宅補助、フード・スタンプ、
厚生、勤労所得税控除、
幼稚園からグレード 12 (12年生) までの無料教育の、
適格者となった。
まもなく大学についてもそうなる。
オバマは、
「大学教育はアメリカ人のすべての手の届く範囲とする」
と約束した。
世の中すべて宴会のお祭り騒ぎとなる。
合法、非合法、含めて、毎年 100万人以上の移民がやってくる。
かれらは米国市民に比べて教育程度も職業熟練度も低い。
しかし、かれらは納める税金の 3倍のものを費消する。
ほとんどの移民は有色なので、
雇用、昇進、入学で、人種・民族の優先措置が得られる。
アメリカの最も豊かなカリフォルニアとニューヨクが、
この重荷に締め付けられ、分解しつつある。
合衆国全体が、そうなるはずである。
しばし呆然ですね。
しかし、現実 (>_<)
アメリカ国民の、ほぼ半数が、残りの半数を養っている。
しかも、高額納税者、わずか 1% が、
その半分の金額を払っている。
これで貧富の差だとか、人種差別だとか、
チャンチャラ笑かしてくれるぜ!!
なんですね。
前にもチラッと書いて、これから何処かに出て来ますが、
イギリス国教会のやり方に反対したピューリタン達が、
自分たちの思う宗教のやり方で、
と新天地を目指してから 400年。
荒れた大地を、血の滲むような努力で開拓して国家を築き、
自分の家を持ち、ようやっと豊かな暮らしが出来るようになった所に、
続々とやって来た新参者たちが、
開拓者たちと同じ家や豊かさや権利を与えろ!! と来たもんだ、
という話。
「寝言を言うのは 400年早い!!」
と、つい、思ってしまいますが、どうでしょうか?
しかし、この格差だとか差別だとかの問題は、
アメリカに限らず、
世界中で紛争のタネの 1 つにもなっている、
言ってみれば 「文明病」 でしょうか。
これじゃあ、税金を払うのがバカバカしくもなるし、
脱税もしたくなるし、
税金の安い国に逃げ出したくもなりますが、
バカ正直だとか、
海外移住するだけの力がない私みたいなのは、
文句を言いながらも納税してしまう・・・(^^;
もくじ
(hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2017-01-28 )
日本語版への序文
序文
まえがき 分裂してゆく国家
1 超大国の消滅
2 キリスト教国アメリカの死
3 カソリックの危機
4 白いアメリカの終焉
5 人口統計の示す冬
6 平等か、自由か?
7 多様性 (ディヴァーシティ) カルト
8 部族主義 (トライバリズム) の勝利
9 「白人党 (ホワイト・パーティ)」
10 緩慢な後退
11 ラスト・チャンス
謝辞
訳者あとがき
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◆ 超大国の自殺 (10) 第1章 ⑧ 社会主義国家アメリカ
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