TRIVIUM ~ Lake Of Fire
パトリック・J・ブキャナン著
宮崎哲弥監訳
病むアメリカ、滅びゆく西洋
2002年12月5日 成甲書房
第十章 分断された国家
(6) 政治 (a)
ただし、支配文化から離脱はできても政治から逃れることはできない。
政治からの逃避は降伏、ひいては文化革命への母国譲渡を意味する。
この先われわれはどう進むのか。
明らかに政府は文化戦争に幕を引きたがっている。
ブッシュ氏はその思いを、フロリダの勝利確定時にこう述べた――
長く辛い 5週間でしたが、
党派を超えて結束せねばととの思いをよりいっそう強く感じます。
わが国を分断させてはなりません。
政治的不和を超え、
国民共通の願い・目標・価値観を実現することが重要なのです。
「そう考えるのもいいんじゃない?」
と 『日はまた昇る』 の悲しい最後でジェイクは言う。
けれどアメリカは分断されており、
「共通の願い・目標・価値観」など存在しないのが現実だ。
だから文化戦争なのだ。
チルトン・ウィリアム・ジュニアが 「クロニカル」 誌で述べたように、
革命派は 「共倒れになってもかまわない」 と考えている。
守旧派は自然法や従来の道徳観に照らし、
新生アメリカが求める中絶や同性愛者同士の結婚その他を否認する。
新生アメリカは、
守旧派の慣習で当節進歩的とされる基準に合致しないすべてのもの
―― タバコ、酒、ファストフード、赤肉、鳥籠で鳥を飼うこと、狩り、ロデオ、射撃、
試合前の祈り、ヘイト・スピーチ、フリー・スピーチ、結社の自由、
四輪駆動車 (4WD)、銃 ――
を否定する。
「ワイオミングのシャイアンならニューヨークやロスの存在も多めに見る」
とウィリアムソン。
「だが、ロスやニューヨークのほうは、
この広大なアメリカの砂漠のどこかほんの一部にでも
敵の慣習、嗜好に則った場所が存在することに我慢ならない」
文化戦争はまだ終わらない。
なぜなら、敵はまだわれわれを処罰しきっていないから。
着の進まぬ闘士、ブッシュ氏も結局は引きずり込まれることになろう。
人はたいていのことは拒否できる。
仕事を命じられても食事に誘われても話しかけられても無視できる。
しかし喧嘩を吹っかけられたら応戦するしかないではないか。
指導者は必ずこの戦場から逃亡するか白旗を掲げようと試みる。
が、逃げ切った大統領は一人もいない。
誰もが結局は譲歩し、言い値を支払ってきた。
ブッシュ氏が陣地を固めるまでに
伝統主義者は戦況を再分析する必要がある。
「ねえトト、なんだかここはカンザスじゃないみたい」
と言ったドロシーのように。
もうここはロナルドレーガンの国ではない。
大部分はクリントン化されてしまった。
仮に今、クリントン対レーガンの選挙が実現したら、
文化エリートの 9割は恥ずかしげもなくクリントンに投票するに違いない。
レーガンは今回も 4倍の大差でカリフォルニアを制することができるだろうか?
中絶反対を掲げる党が、
1972年・ニクソン、1984年・レーガンのように
49州を手中に収めることができるだろうか?
西洋の危機脱却を政治に頼るのは無理だ。
なぜなら物的危機ではなく魂の危機だから。
少子化も快楽主義も物質主義も、
トム・ディレイやトレント・ロット、ブッシュ大統領にはどうにもできない。
とはいえ政治が無関係というわけではない。
フランクリン・リーズヴェルトは大統領職を 「モラルの統率が本文」 と言った。
かつて 「悪の帝国」 に対してやったように、
一歩一歩前進し敵の手を封じてゆけば巻き返しも可能なのだ。
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目 次
(http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2016-08-15 )
日本版まえがき
序として
第一章 西洋の遺言
第二章 子供たちはどこへ消えた?
第三章 改革要項
第四章 セラピー大国はこうして生まれた
第五章 大量移民が西洋屋敷に住む日
第六章 国土回復運動 (レコンキスタ)
第七章 新たな歴史を書き込め
第八章 非キリスト教化されるアメリカ
第九章 怯える多数派
第十章 分断された国家
著者あとがき
監訳者解説
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◆ (64) 第十章 ⑥ 政治 (a)
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