GOO GOO DOLLS ~ Iris
UK TOP 40 ROCK SINGLES (2016.09.02付)
No.2 (Up-6 | 480weeks in chart)
パトリック・J・ブキャナン著
宮崎哲弥監訳
病むアメリカ、滅びゆく西洋
2002年12月5日 成甲書房
第七章 新たな歴史を書き込め
(1) 発明される歴史
ちょっと前までアメリカの子供は偉大なる探検家の名前を全部言えた。
マゼラン、ダ・ガマ、デソト、コルテス、ヘンリー・ハドソン。
なかでも最もすごいのは、やはりコロンブス。
なんといっても世界史に燦然と輝くアメリカ大陸発見者だ。
歴史の教科書はここから始まる。
カトリック校の教科書はフランスやスペインの探検家、イロコイ族に布教に行って殉死した宣教師の話などに力点が置かれていたが、ジョン・スミスやジェイムズタウン、ピルグリム、プリマスロックについても一応は触れていた。
ここから話は一気に 150年後に飛ぶ。
フレンチ・インディアン戦争、印紙条令
ボストン虐殺事件、ボストン茶会事件、「自由か、しからずんば死を」、バンカーヒル、独立宣言、フォージ渓谷、「国のためにたった一つの命しか捧げられないことが残念だ」、ベネディクト・アーノルド、サラトガ、そしてヨークタウンでのコーンウォリス降伏。
勝利から勝利へとアメリカ史は行進を続ける。
ホワイトハウスは英軍に焼き落とされたがドリー・マディソンは肖像画をすべて救出した。
マクヘンリー要塞で米軍は一晩中砲撃に曝されたが、アンディ・ジャクソンがニューオーリンズで仇を討った
まもなくアラモの砦で英雄クロケットと部下たちが降伏を拒否し、戦死した。
アメリカが何かを略奪したという指摘は一切ない。
略奪を始めたのはアラモ以降のメキシコ人だ。
1950年代、全米にデイヴィ・クロケット旋風が巻き起こり、「開拓の英雄」 を描いた映画やドラマは大ヒットを飛ばした。
俳優フェス・パーカーはクロケット役として人気を博し、トレードマークのアライグマの帽子が子供たちに大流行、ロックスター、ジョニー・ホートンの歌う 『ニューオーリンズの戦い』 (作詞作曲・ジミー・ドリフトウッズ) も大ヒットした。
南北戦争においてリーとジャクソンは威風堂々たる軍人で、シャーマンのアトランタ進撃は歴史の汚点である。
再建は容赦なく進められたが、勇敢なる南部諸州はもっと丁重に扱われてしかるべきだった。
『ディキシー』 のほうが 『リパブリック賛歌』 より人気があった。
それでもリンカーンは偉人だ。
連邦を維持し奴隷を解放した彼が暗殺者ブースの凶弾に倒れたのはアメリカ史上最大の悲劇の一つである。
正直者エイブが生きていたら苛酷な再建は絶対に許されなかっただろう。
われわれはそう教わった。
南北戦争後、西部開拓時代が訪れる。
開拓者たちは男も女も子供も、苛酷な気候、インディアン襲来の恐怖と闘いながら大平原を横断した。
カスター将軍と第七騎兵隊は教科書では英雄譚。
エロル・フリンの 『壮烈第七騎兵隊』 もそう描かれている。
この時代、鉄道、銀行を中心に企業の独占が横行したが、偉大なる 「トラスト討伐者」 テディ・ルーズヴェルトが片をつけた。
サンファン・ヒルの戦いを制し、パナマ運河も獲得したアメリカの誇る天才が。
また、エジソン、ライト兄弟、グラハム・ベルと、アメリカ人による大発明が続々となされた時代でもあった。
第一次大戦が始まるとウィルソンは 「民主主義のために世界を守れ」 と派兵。
ドイツ潜水艦の魚雷攻撃を受け参戦した米軍はパーシング指揮の下、英雄ヨーク軍曹の活躍でドイツ軍を撃破した。
やがて真珠湾での奇襲。
そしてわが軍はまたもや欧州の地へ赴いた。
打倒ムッソリーニ、ヒトラーの指名を果たすために。
しかしカトリック校ではスターリンは極悪非道以外の何者でもなかった。
私の通う学校では人民戦線は結成されず、「神をも畏れぬ共産主義」 から世界を救いましょうと教わった。
毎日ミサの最後に私たちは 「ロシア回心への祈り」 を捧げた ―― やがてそれは普通の 「平和のへの祈り」 に変わったが。
以上、何の演出もない素のままのアメリカ史である。
そうはいっても芯を貫く真理は存在する ―― われわれアメリカ人には、史上稀に見る豊かで壮大な歴史があるということ。
過ちを隠している?
確かにそうかもしれないが、それはどこの国も一緒。
ただ、アメリカほど過去の過ちを認める努力をしてきた国は他にない。
だからもう八つの子供にピロー砦やウォーレン・ハーディング疑獄、ジョン・F・ケネディについて討論させる必要はどこにもない。
われわれは国を守ろうとする良き市民を育てるために公立学校をつくった。
子供たちを愛国心ある大人に育てるために。
歴史や伝記、物語、詩、歌、絵画を通して自国の偉大なる過去に触れさせるために。
愛国心を育てることによって、人は生涯この国の一員でいたい、家族を守るのと同様、国民を守るためには己の命さえ犠牲にしてもかまわないと考えるようになる。
アメリカの子供たちは今、受け継ぐべき伝統を、壮大な国史を知る権利を剥奪されている。
アーサー・シュレジンジャー Jr は 『アメリカの分裂』 のなかで、ミラン・クンデラの 『笑いと忘却の書』 の一節を引用している。
一国の人々を抹殺する第一ステップはその記憶を失わせること。
つまり書物、文化、歴史を破壊すること。
それから誰かに新たな書物を書かせ、新たな文化を造らせ、新たな歴史を発明させる。
やがてその国は現在も過去もすべて忘れはじめる。
さらに 「権力との闘いは記憶を維持するための闘い」 だとも付け加えている。
目下、米国史は文化大変革と闘争中である、
が、すでに “真実省” がわれらの歴史と英雄にいかなる処置を施したか、ご覧にいれよう。
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目 次
(http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2016-08-15 )
日本版まえがき
序として
第一章 西洋の遺言
第二章 子供たちはどこへ消えた?
第三章 改革要項
第四章 セラピー大国はこうして生まれた
第五章 大量移民が西洋屋敷に住む日
第六章 国土回復運動 (レコンキスタ)
第七章 新たな歴史を書き込め
第八章 非キリスト教化されるアメリカ
第九章 怯える多数派
第十章 分断された国家
著者あとがき
監訳者解説
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◆ (45) 第七章 ① 発明される歴史
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