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◆ (43) 第六章 ② はたして国家とは何か?

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FITZ AND THE TANTRUMS ~ Handclap
Billboard TOP 25 HOT ROCK SONGS (2016.08.27付)
No.11  (Down-1 | 20weeks in chart)



パトリック・J・ブキャナン著
宮崎哲弥監訳
病むアメリカ、滅びゆく西洋
2002年12月5日 成甲書房



第六章 国土回復運動レコンキスタ

2はたして国家とは何か?



メキシコから来るにしろモーリタニアから来るにしろ、ほとんどの移民は善良で礼儀正しい人々だ。
われらが祖先同様、彼らもより良い暮らしを求めてやってくる。
職を見つけ、法律に従い、自由を愛し、世界一偉大な杭が提供するチャンスを味わう。
たいていはアメリカを愛し、喜んでこの国の一員になろうとする。
そういう人がアメリカじゅうにあふれている。
だが、異質な文化圏から押し寄せる空前の大量移民は新たな疑問を突きつける――国家とは何か



同一ルールの下、同一の地に暮らす、共通の祖先、言語、文学、歴史、遺産、英雄、伝統、習慣、習俗、信仰を持つ人々の集まり、と定義する人もいるだろう。
これが国家とは血と地であるという説だ。
この説の強力な信奉者だった国務長官ジョン・クインシー・アダムズは
「移住者はヨーロッパの皮を脱ぎ捨てること。
二度とまとってはならぬ。
先祖を振り返るのではなく子孫に待ち望むこと」
と言明した。
「外国系アメリカ主義」 を断固非難したセオドア・ルーズヴェルトもアダムズ派と見ていいだろう。
ウッドロー・ウィルソンも 1915年、フィラデルフィアで新たに帰化した集団に向かってルーズヴェルト説を繰り返した。
「自分が何系だ、どこ出身だと考えているような者は、まだアメリカ人になったとはいえない」。
こうしたアメリカ人を他とは異なる独自の民族とする考えはジョン・ジェイが 『ザ・フェデラリスト』 で初めて提示した。



神はこの一つに連なる国土を一つに結束した民に喜んで与えたもうた――
同じ祖先の血を引き、同じ言語を話し、同じ宗教を信仰し、同じ体制に属し、非常に似通った風俗や慣習を持ち、総力を結集して長きに渡る流血の戦を共にくぐり抜け、見事、自由と独立を打ちたてた人々に。



しかし今、アメリカ人を 「一つに結束した民」 と考える人がいるだろうか?



われわれは同じ祖先の血など引いていない。
同じ言語も話していない。
宗教も違う。
もはやこの国は、社会学者のウィル・ヘルベルクが 1955年に 『アメリカ宗教社会学小論』 で評したような、プロテスタントとカトリックとユダヤ教の国ではない。
モルモン、ムスリム、ヒンドゥー、仏教、道教、神道、サンテリア、ニューエイジ、ヴードゥーから、無宗教者、無神論者、ヒューマニスト、ラスタファリアン、妖術使いまで何でもありだ。
ブッシュ大統領は就任の際の宣誓でイエスの名を口にしただけで、「無神経」 「軋轢 (あつれき) を生む」 「排他的」 との批判を浴びた。
もはや国民の間に神の存在、生命の起源、倫理の定義に関する同一の認識など存在しない。
われわれは 「似通った風俗や慣習」 など持っていない。
「長きに渡る流血の戦 (いくさ) を共にくぐr抜け」 てもいない。
偉大なる世代はくぐり抜けたが、それも今は昔のことだ。
「長きに渡る流血の戦」 と言われて思い浮かべるのはヴェトナムだが、あれは 「共に」 戦ったなんてものではない。



いまだに 「同じ体制に属し」 てはいるが、だからといって一体感を感じるというわけでもない。
南部は北部と 「同じ体制に属し」 ていたが、それは 4年に渡って南部人が北部の同胞からの自由を求めた流血の戦を止めるすべにはならなかった。



ブッシュ大統領は就任演説でジョン・ジェイ説をはっきりと否定した。
「アメリカはかつて一度も血筋や出生、土地によって結束したことはない。われわれは個々の経歴や利害を超え、国民であることの意味を教えてくれるような理想によって結ばれている」と。
アーサー・シュレジンジャー・Jr. は著書 『アメリカの分裂』 のなかで、理想を共有することにより結束するというブッシュの国家観は、アメリカ史や偉大なる資料――独立宣言、憲法、ゲティスバーグの演説――にも見てとれるという。



アメリカが理想とする国家は、個々人が自己決定と自己責任の下に集まる国であって、不可侵の民族共同体を基盤とする国ではない。
われわれが尊ぶ価値は思いつきや気まぐれ、偶然の産物ではない。
歴史が与えてくれたものだ。
それらはみな国民の体験、偉大なる資料、国家の英雄、習俗、伝統、規範のなかに根づいている。
そうした価値はわれわれ国民のために機能する、ゆえにわれわれは生涯その価値に従う。



しかしすでにわれわれの価値観、歴史、ヒーローは異なっている
半数が輝かしき栄光とみなす過去を、あとの半数は恥ずべき邪悪な過去と考える。
コロンブス、ワシントン、ジェファーソン、ジャクソン、リンカーン、リー ―― 歴史上の英雄は現在攻撃に晒されている。
アメリカを象徴するとされる言葉 「自由と平等」 も、人によって千差万別の意味を持つ。
「偉大なる資料」 に関していうなら、最高裁の憲法解釈は国民を結束させはしなかった ――40年間、最高裁は国民を厳格に分離する判決を出し続けた。
学校での祈祷、教育の統合、強制バス通学、国旗焼却、中絶、ポルノ、十戒裁判を通して。



民主主義信仰もわれわれを一体化するには不十分だ。
2000年大統領選の投票率は 50%。
中間選挙となるとわずか 40%。
誰が議員になろうが判事になろうが知ったことかという人が無数にいる。



「血と地」 説をとろうと 「理想」 説をとろうと、どりらにしろ今のアメリカは昔とは別物だ。
40年代とも 50年代とも 60年代とも違う。
同じ指導者の下、同じ土地に暮らしてはいるが、われわれは依然一つの国家、国民だと言えるだろうか?



とても Yes とは言いがたい。
さらに世界中から押し寄せるこの大量移民―― 3分の1 は不法侵入者――が、分裂しかけたこの国を再び一つにしてくれるとも思えない。
ジョン・スチュアート・ミルは
「多民族国家で自由な制度をしくのは不可能に近い。
相互理解に欠ける国民の間では立法府の機能に必要な統一世論が形成できない――
言葉が違う場合はなおさらだ」
と警告を発した。



ミルの発言の当否はもうじき判明する。

          ◇


目 次
(
http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2016-08-15 )

日本版まえがき
序として

第一章 西洋の遺言
第二章 子供たちはどこへ消えた?
第三章 改革要項
第四章 セラピー大国はこうして生まれた
第五章 大量移民が西洋屋敷に住む日
第六章 国土回復運動レコンキスタ
第七章 新たな歴史を書き込め
第八章 非キリスト教化されるアメリカ
第九章 怯える多数派
第十章 分断された国家
著者あとがき
監訳者解説



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