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◆ サウジ・イラン断交 (13) 6カ国とイランの “歴史的核合意” は失敗か


2016.01.05
産経抄】 歴史的合意は失敗か
(http://www.sankei.com/world/news/160105/wor1601050014-n1.html )

昨年 (2015年) 7月に発表された、イランと欧米など 6カ国の 「核合意」 について、新聞各紙は
「歴史的な合意」 ともてはやした。

確かに、米国とイランが手を結ぶのは、1979年のイラン革命と米大使館人質事件以来である。


▼ しかし、杏林大学名誉教授の田久保忠衛さんは、小紙の正論欄で、「今回の合意は、地域の
  安定を一層危険にする」 と指摘していた。

  どうやら田久保さんの心配が、現実になったようだ。

  イスラム教スンニ派の大国サウジアラビアの外相が 1月 3日、シーア派の大国イランに対して、
  国交断絶を発表した。


▼ サウジは前日、国内のシーア派指導者の死刑執行を明らかにしていた。

  これに対しイランの最高指導者ハメネイ師は、サウジ政府を激しく非難、首都テヘランでは、
  暴徒化した群衆が、大使館を襲撃していた。


▼ 世界に 16億人いるといわれるイスラム教徒の約 9割をスンニ派が占め、イラン周辺で発展した
  シーア派は約 1 割とされている。

  預言者ムハンマドの死後、後継者をめぐる考え方の違いから、分かれた。

  日本人の多くが、区別できるようになったのは、イラン革命からだろう。


▼ 周辺のスンニ派諸国、とりわけサウジは、革命の “輸出” を何より恐れた。

  シリアやイラクで続く内戦や混乱は、両国の 「代理戦争」 の様相を呈している。

  サウジは、イランが将来、核兵器を獲得すると信じて疑わない。

  平和目的とはいえ、核開発を認めた合意を面白く思うわけがない。

  両派の対立は、他の中東諸国にも広がろうとしている。


▼ イラン革命を現地で見届けたイスラム学者、故・井筒俊彦さんは、「スンニとシーアの違いを根源
  的に知る人が少ない」 と嘆いた。

  「調停できる人」 と言い換えてもいいかもしれない。



2016.07.22
正論
イラン核合意は歴史的成果
杏林大学名誉教授 田久保忠衛

(http://www.sankei.com/column/news/150722/clm1507220001-n1.html )

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絶海の孤島に住む一部の人々によるひそひそ話が、いかにも世界で通用する議論のように扱われ
ている。

欧米など 6カ国とイランの核合意が発表された翌日の、某全国紙社説である。


「 2週間を超える交渉を経て」 最終合意に達した云々 (うんぬん) の事実誤認は問わぬとして、
   「イランに核兵器を持たせないようにする歴史的な合意である。
   イランの核疑惑は中東の緊張を高める要因になってきた。
   この疑念を取り除く意義は大きい。
   合意を確実に履行し、中東地域の安定実現にいかすことを望む」
とのこのうえない陳腐な表現を目にするだけで辟易 (へきえき) する。


限定された監視能力


「歴史的合意」 とは 1979年の 『イラン革命』 と 「米大使館人質事件」 以来初めて、両者間にそれ
ぞれ腹に一物あっての合意をしたという事実の形容であって 「歴史的成功」 どころか、イスラエル
のネタニヤフ首相の言う 「歴史的失敗」 という短い一言がより正確な表現かもしれない。


米英の新聞の中でとくに関心を引かれたのはウォールストリート・ジャーナル (WSJ) 紙で 「テヘ
ランの核勝利」、「アラブ諸国はいま何を考えているか」 の 2本立て社説を掲げ、自由な新聞らしく
思いのたけを述べた。


難交渉の結果、得られた結論を評価したうえで、国際社会はこれを注視しなければいけない、と
月並みな説教を垂れる社説が少なくない中で、鋭角から批判の矢を放っている。


オバマ大統領は国際原子力機関 (IAEA) が 「どこへでも、いつでも接近できる取り決めが恒久
化された」 と述べたが、実際は反対で、疑惑のあるところを査察するにはイランの許可を得なけれ
ばならない。

監視能力は強化されたが、恒久的なものではなく、2015年から 2025年の間に限定されている。


第 1 世代の遠心分離機I R-1 は強く規制されるが、数百に上る従来の遠心分離機は厳重な警戒
下にあるフォルドにそのまま寝かされ、スイッチ一つで再稼働する。

イランは新しい遠心分離機の生産、実験もできるので、合意期限の切れる 15年後には速やかに
濃縮力は手にできる ― といった指摘はオバマ政権の交渉そのものの否定にほかならない。


一層危険になる地域の安定


イランが、経済制裁措置、石油価格の値下がり、世界経済の低迷にいかに苦しんでいたか。

2013年 6月の大統領選挙で、穏健派の聖職者、最高安全保障委員会事務局長として欧米の
出方を知悉 (ちしつ) する経験を積んだロウハニ氏を選んだ事実が物語っている。


外相には、米外交の舞台裏交渉にたけたザリフ氏を任命し、マサチューセッツ工科大学で原子力
工学の学位を取得したサレヒ前外相を副大統領兼原子力庁長官に、軍縮問題の専門家ナジャフィ
氏を IAEA 担当大使に据えた。

最初から米側に話し合いを求める布陣だった。

にもかかわらず、実際の交渉で米側はイランに有利な方向に押し込まれている。


イスラエルやスンニ派の指導的立場にあるサウジアラビアなど、従来イランを天敵とみなしてきた
国々はオバマ政権を 「裏切り」 と見てきたことは間違いない。


だから、今回の合意は地域の安定を一層危険にする。

米国は今後この地域から引いていくのではないか。

経済制裁措置が緩和されるにつれて、すでにシーア派イランを頂点に形成されたシリア、レバノン
の武装勢力ヒズボラ、イエメンのフーシ派は活動を活発化させる。

15年後のイラン核武装を前提にして、すでにサウジは 2030年までに原子炉 16基の建設計画を
進めている。


ゼロにならない既成の事実


かつてパキスタンの核保有を助けたサウジはいざとなればパキスタンから既製の核兵器を入手
できるとの説もある。

これはアラブの大国エジプト、独自の歩みを進めるトルコに連鎖反応を及ぼさないか。

WSJ 紙は核拡散を懸念しているが、当然だと思う。


私はいまキッシンジャー元国務長官が今年 (2015年) 1 月 29日の米上院軍事委員会で、用意
された声明を冷静に読み上げていた内容を思い出している。

米国がイランと交渉して結論を得たとしても、外交交渉の出発点はイランの核保有能力の全否定
ではなく、いま相手が持っている能力をこれ以上、増大させないようにいかにうまく管理するかに
変化しているとの指摘である。


われわれの身に立ち返って考えよう。

南シナ海で中国が急速に大規模な人工島を7カ所つくってしまった。

オバマ政権がどれだけ立腹しようと、既成の事実はゼロにするわけにはいかない。

人工島から 12カイリに延びる領海を、あるいはこれから設定するかもしれない防空識別圏の設定
をいかに阻止するかに外交の重点は移る。


東シナ海の日中中間線ぎりぎりに中国がつくり上げたプラットホームは、今後軍事化を認めるか
どうかの交渉に移るのだろうか。

日本は北方領土で 「政経分離」 の原則を要求しながら、いまはどのような立場か。

既成事実を構築した国は勝っている。(たくぼ ただえ)


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