2016.01.04
米国の影響力後退 中東の不安定化加速
新たな紛争懸念
(http://www.sankei.com/world/news/160104/wor1601040048-n1.html )
「サウジアラビア」 が 「イランとの断交を発表」 したことで、中東地域の不安定化が一層加速する
懸念が出てきた。
米国が中東での影響力を後退させる中、宿敵イランの伸張を警戒するサウジには、強い危機感が
にじむ。
中東の両大国の対立は、新たな紛争を招きかねない。
中東で進む地殻変動は、エネルギーを中東に依存する日本にとっても決して無関係ではいられない。
中東では、1979年の 『イラン革命』 後に、米・イランが断交して以降、米国と、イスラム教スンニ派
の親米アラブ諸国が、シーア派イランの影響力を閉じ込めることで基本的な秩序を形成してきた。
スンニ派の 「盟主」 を自認し、豊富な石油資源を持つサウジは、その一翼を担うと同時に、もっとも強く
恩恵を受けてきた国といえる。
イランによる核兵器開発疑惑は、この既存秩序への重大な挑戦と受け止められた。
米国をはじめとする国際社会が、経済制裁措置などによってイラン封じ込めを進めてきたのもこのためだ。
しかし、2003年のイラク戦争とその後の駐留経費増大などで疲弊した米国のオバマ政権は、昨年夏の
核合意で限定的ながらもイランの核開発を認めて制裁解除を進め、同国との関係を改善させる方向に
かじを切った。
イランを安全保障上の脅威ととらえ、核合意に反対してきたサウジの目には、「裏切り」 と映ったことは
想像に難くない。
2011年 ~ 2012年に中東・北アフリカの長期政権が相次いで倒れた 「アラブの春」 も、中東の混乱と、
サウジ・イランの覇権争いに拍車をかけた。
シリアでは 2011年の内戦発生当初から、
「シーア派の一派とされるアラウィ派」 主導のアサド政権をイランが、
「スンニ派主導の反体制派」 をサウジが
それぞれ支援する構図が続き、民主化要求運動は宗派対立の様相を強めていった。
周辺諸国には、サウジとイランの対立の激化は、その宗派対立をさらにエスカレートさせかねない恐怖
を抱かせている。(カイロ=大内清)
2016.01.04
シリアめぐり利害激突 石油依存の日本にもリスク
(http://www.sankei.com/world/news/160104/wor1601040045-n1.html )
イランにとってシリアは、自国からシーア派が多いイラクを通ってレバノンに至る 「シーア派三日月地帯」
を結ぶ重要な結節点であり、何としても影響力を失いたくない地域だ。
これに対しサウジは、シリアに自国の影響力が及ぶスンニ派系政権を樹立することで、イランの伸張に
くさびを打ち込むことができる。
両者の利害は真っ向からぶつかり、内戦を泥沼化させる要因となった。
その間隙を突く形で台頭したのが 「イスラム国」 (IS) などのスンニ派過激組織だった。
シリア問題をめぐっては、対立してきた 「米露」 が昨年、「IS 対策」 を突破口に歩み寄りを見せたが、
「代理戦争」 の当事者ともいえるサウジとイランは焦点であるアサド政権中枢の処遇などをめぐって
激しく対立しており、国際社会の足並みがそろう状況にはない。
サウジが政権側を支援し、イランがシーア派系反政府勢力を後押しするイエメン問題でも事情は同じだ。
アラブの春以前の中東では、もう一つの大国であるエジプトのムバラク政権がイランとの関係改善を
進める局面などもあった。
大国間の力関係がある程度均衡し、それが互いを牽制する効果も生んだ。
しかし、ムバラク政権崩壊後のエジプトは、社会不安と経済低迷からサウジなど富裕な湾岸諸国の
支援への依存を深め、域内外交のバランサーとしての役割は弱まった。
イランへの危機感と敵対心、さらにはシーア派への嫌悪感やスンニ派世界の拡張という “宗教的野心”
と一体となったサウジの外交手法をとどめることは難しさを増しているのだ。
聖職者による指導という政教一致体制をとるイランについても同様のことがいえる。
こうした構造的な変化に伴う中東情勢の流動化は、中東に石油輸入の 8割以上を依存する日本に
とっても大きなリスクとなる。
サウジとイランの両国は今後、シリアやイエメンのみならず、中東各地で自国に近い勢力を支援する
ことで影響力のさらなる拡大を目指すと予想される。
緊張の増大が油価の上昇といった形であらわれる可能性も高いほか、政情不安を奇貨としたテロ
などの危険性が増すことも考えられる。
中東では利益拡大や宗教的理由などで他国への介入が繰り返されるのが常態だ。
現在の問題は、それに歯止めをかける存在がみえない点にある。(カイロ=大内清)
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◆ サウジ・イラン断交 (12) 石油依存の日本にもリスク
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