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◆ サウジ・イラン断交 (10) 冷戦終結=パンドラの箱のフタを開けた

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2016.01.04
正論
湾岸戦争から 25年
国際秩序の崩れはいよいよ深刻な現実となった…
京都大学名誉教授 中
西輝政
(http://www.sankei.com/premium/news/160104/prm1601040012-n1.html )




皮肉な素晴らしき新世界


昨年、日本では 「戦後 70年」 に人々は大きな関心を向けたが、世界では、ある戦争の 「戦後 25年」
が差し迫った話題になっている。

それは 1991年に起こったあの 『湾岸戦争』 である。

というのも、冷戦後の世界秩序の歴史的な崩れがいよいよ現実となってきたからである。

実際、2015年の世界は、シェークスピアが、人々の傲慢なほどの楽観主義はやがて大いなる幻滅と
混乱をもたらすことを、皮肉を込めて呼んだ 「素晴らしき新世界」 を現出するものとなった。


中東とヨーロッパ・北米を覆った凄惨なイスラム教スンニ派過激組織 「イスラム国」 (IS) によるテロの
連鎖と、第二次大戦以来かつてなかった大規模な難民流出という人道上の危機。

目を東に転じれば、この数十年 「改革・開放」 を掲げグローバル経済の恩恵を受けて急成長してきた
中国が、一転、強硬な軍事膨張政策を露わにし、南シナ海の人工島をめぐり米軍と正面切って対峙
し始めた。


さらにプーチン政権のロシアも武力を行使してクリミアを併合した上に、ソ連時代にもやらなかったよう
な中東への直接的な軍事介入に乗り出している。

他方、アメリカは中東への本格介入は何としても避けようとしている。

冷戦後の世界秩序は明らかに 「底抜けした」 と言うしかない状態である。


かつて 「希望の世紀」 の到来と期待された冷戦終焉後の世界は、今や全く皮肉としての 「素晴らしき
新世界」 に成り果ててしまった。

一体なぜこんなことになってしまったのか。

全ては 「あの戦争」 に起因しているのである。


日本では 『湾岸戦争』 というと、自衛隊を派遣すべきか否かで大論争になり、結局、派遣できずに大金
を支払って逆に世界から顰蹙を買った出来事、という記憶しかないかもしれない。

が、あの戦争こそ今日の国際秩序の混迷の元凶だったことを知る必要があろう。


単独覇権もくろんだ湾岸戦争


25年前の 1 月 17日、『湾岸戦争』 開戦の朝、「砂漠の嵐作戦」 に参加したアメリカ第 82空挺師団の
ある軍曹は次のような手記を残した。

   「今われわれは今後数百年にわたる世界の大改造のためにこの戦争を戦おうとしているのだ」。

ブッシュ大統領 (父) も、この戦争の目的を 「世界新秩序の確立」 と、その開戦演説で語った。


確かに武力でクウェートを占領したサダム・フセインのイラクを制裁し、クウェートから撤退させることは
国際社会の一致した意思であった。

問題はそのやり方だった。

しかもアメリカの目標は理念的にすぎた。ここにアメリカの過誤があったといえる。


実は地上戦突入の直前、イラク軍のクウェートからの無条件撤退が行われる流れができあがっていた
のである。

しかし、アメリカはあえてそれを許そうとはしなかった。

このことは近年公開され始めた各国の外交文書や各種資料が実証するところである。


私は 『湾岸戦争』 直後、「湾岸に沈んだ新秩序 - 単極体制を夢みるアメリカは世紀の過ちを犯す」 と
題する論文を発表した (『Voice』 1991年 5月号)。

そこでも触れたが、ブッシュ大統領は 「開戦演説」で、アメリカ独立戦争の思想的指導者トマス・ペイン
の言葉を引用して 「この戦いは人々の魂をめぐる戦いとなろう」 と語っていた。


つまり、アメリカの圧倒的な力を世界に見せつけることによって、冷戦後の世界で 「唯一の超大国」 と
して、強いリーダーシップと、アメリカの単独覇権という、世界秩序を作り出すことがこの戦争の目的だ、
ということを意味していたのである。


アメリカの振幅と落差の大きさ


実際それはあまりにも華々しく成功し、しかもあまりにもあからさまであった。

その傲慢さは世界中に深い反発と怨念を残すことになった。

その一つが 「アルカーイダ」 などのイスラム過激主義を生み出し 「9・11」 や 「アフガン戦争」、「イラク
戦争」 をもたらし、今日の 「IS」 の出現に繋がってくるのである。


今こそオバマ大統領のアメリカは、世界秩序維持のために、地上軍による本格介入が求められるとき
であるのに、そしてアメリカにはその力があるのに、シリアの人道危機にも正面から対処しようとしない。

この振幅と落差の大きさは、アメリカの同盟国としてわれわれは覚えておく必要があろう。


『湾岸戦争』 を見て、米軍のハイテク兵器に震え上がった中国の人民解放軍は、以来、営々と歴史的
な大軍拡へと突き進み今日に至っている。

地上戦突入の前日 (1991年 2月 23日) には、モスクワ中心部に 50万人のソ連軍人が集まって、
アメリカへの対抗の必要を訴えた。

これこそソ連崩壊を超えて、今日アメリカへの対抗心をむき出しにクリミア併合や中東介入に突き進む
プーチン外交を支える、ロシア国民の精神的な淵源なのだ。

かくて世界は冷戦後の新秩序の機会を失っていったのである。

25年の長丁場で世界を見る視点が求められるゆえんである。(中西輝政 なかにし てるまさ)



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