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◆ 超大国の自殺 (4) 「われわれは・・・かれらを平等にはあつかえない」

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パトリック・J・ブキャナン著/河内隆弥訳
超大国の自殺
―アメリカは2025年まで生き延びるか?―

2012年11月5日発行 幻冬舎


第6章 平等か、自由か?


4) 「われわれは・・・かれらを平等にはあつかえない


リンカーンはどうだったろうか?

この奴隷解放令の張本人はすべての人の平等を信じていただろうか?



リンカーン好きのアメリカ人は、このイリノイから奴隷を解放しにやってきた、賢く、素晴らしいウィットの持ち主は、
世が世であればマルチン・ルーサー・キングと手を携えて行進しただろう、と思っている ――

しかし、このリンカーン像は同時代人が認めるものとは異なる。

1854年という速い時期に、リンカーンは、奴隷制を 「とんでもない不正」 と断じ、勇敢にも政敵スティーブン・ダグ
ラスとの論戦で反奴隷制の側に立った。

1858年 9月 18日、「リトル・ジャイアント (ダグラスのあだ名)」 に悩まされたあと、イリノイ州チャールストンで、
リンカーンは共和党上院議員候補として壇上に立つ。

かれは、社会的、政治的平等について述べた。

   そこでわたしは申し上げたい。

   わたしはどんなかたちにせよ、白人と黒人の間に社会的、政治的な平等を持ち込もうとはしないし、してこな
   かった ――


   黒人に選挙権や陪審県を持たせる、官吏に登用する、白人と結婚することに賛成はしないし、してこなかった。

   加えて申し上げたい。

   白人と黒人には身体的な相違があり、わたしは二つの人種が社会的、政治的に平等な形で、いつまでもともに
   暮らせるとは考えていない。


   そういう形で暮らせないのに、黒人が一緒にいたいというのであれば、優位と劣位の違いを設けなければなら
   らない。


   そしてわたしは、ほかのみなと同じように、白人に優位を与えたいと思う。



いまこんな白人至上主義的なことを候補者が言おうものなら、そこで一巻の終わりである。

その少し前の 1854年 10月 6日、ペオリアでリンカーンは、奴隷制度が廃止されたあと、解放奴隷をどう扱ってよい
か、その複雑な気持ちを訴えた。

   全権が与えられても、わたしはいまある制度をどう持っていってよいか分からない。

   わたしの最初の衝撃からすれば、奴隷をみんな開放してリベリア ― かれらの生国・・・ へ送り届けたい。

   それとも開放して、政治的、社会的に、われわれと平等にしますか?

   わたし自身の感情はそんなことを許さないし、かりに許したとしても、白人の大多数が許さないことはわかって
   いる・・・。


   良かれ悪しかれ、一般の感覚というものを無視するわけにはゆかない。

   だから、かれらを平等にはあつかえないのだ。



リンカーンは、白人優位が、アメリカの 「白人の大多数」 の 「一般感覚」 であると言う。

その一般感覚をリンカーンも持っていた。




かれはすべてのものの自由を信じていた。

しかしすべてのものの平等は別である。



リンカーンは、黒人と白人は同じ人間性を持ち、自由であることの権利を持っていると言うに過ぎないのである。

   「われわれは・・・かれらを平等にはあつかえないのだ」

と述べたあと、かれは続ける

   それに反することをわたしが言ったことはないが、かといって、独立宣言に列挙されている ― 生命、自由、
   幸福追求のすべての権利が、
黒人には与えられていないとする理由は、まったくないものと考えている。

   わたしは黒人が白人と同じ資格を持つものと考える

   黒人が、色々の点でわたしと等しいものではない、という点で、わたしはダグラス判事と同じ意見である――

   たしかに肌の色は違うし、多分道徳的、知的な行動でも違うことだろう

   しかし、自分で稼いで自由にパンを食べる権利は、わたしと等しく、ダグラス判事とも等しく、そして生きて
   いるものすべてと平等に持っているのである




雄弁であり、当時としては英雄的な発言だった。

1857年のドレッド・スコット判決 (訳注: 米国最高裁の判決で、合衆国は連邦領土内で奴隷制度廃止の権限を持た
ない、とするもの) に際して、リンカーンは問題を遺憾とはするものの、フィラデルフィアで建国の父たちが言わんと
したことについて論評した。

   この有名な宣言で、起草者たちはすべての人間を包含するつもりではあったが、あらゆる面で、すべての人間
   が平等である、と宣言する意図はなかったものと思う。

   かれらは、すべてのものが肌色、身体の大きさ、知性、道徳律、社会的能力において等しいと言ってはいない。

   すべての人間が平等に ― 「生命、自由、幸福追求という、ある侵すべからざる権利」 において平等につくられ
   ている、
という許容できる特定の部分について定義されているに過ぎない。

   かれらは、そのことしか言っておらず、それ以上の意味を持たせていない。



リンカーンの言うところは次のとおりである ――

黒人は、生命、自由、幸福追求という天与の権利を白人と同様に持っている。

そして 1776年の独立宣言は、いつの日か、かれらが同じ権利を享受できることの約束手形である。

しかしすべての人間が天与の権利について平等であるとしても、天与の才能については平等ではない。



人はその時代を離れて測らねばならない。

「裁いてはいけません、裁かれないために! (訳注: マタイの福音書 7―1)」 とリンカーンは二度目の就任演説で
述べた。

かれの奴隷制度に対する性質位置は、奴隷制度は邪悪なものであって、自分がそれに手を染めることはないという
もので、信念を持つ勇気ある政治家の態度といえた。

平等に関するかれの見方は、大衆の見方でもあった。



しかしリンカーンが人々を平等にするために戦ったのでないとすれば、「人々を自由にする」 ために戦ったのだろう
か?

そうではない。

リンカーンは、サムター砦で国旗が焼かれた後、統一を回復するために戦ったのである。

1861年 3月 4日、最初の大統領就任演説で、リンカーンは、脱退した 7 州に、連邦政府が逃亡奴隷の保障をする
ことを提案し、奴隷制度が現存している 15州について制度を永久化するよう憲法改正を行うことを約束した。

1862年 8月 22日付で、リンカーンは、ホレス・グリーリー (訳注: アメリカ有数の新聞編集者。1811 ― 1872) に
手紙を書いた。

   「この戦争におけるわたしの崇高な使命は、統一を守ることにあります。

   奴隷制度を守ることにもなければ、それを破壊することにもありません。

   奴隷をひとりも自由にしなくても統一を守ることが出来るのならば、わたしはそうします・・・」。



しかし 1863年 1月 1日、リンカーン奴隷解放令で、反乱領土における奴隷の解放を宣言し、すべての奴隷を
自由にする
、という憲法改正を支持した。

1865年 4月に自身が暗殺される 1カ月前の二度目の就任演説で、リンカーン宣言した。

   この大災厄である戦争が早く終わることを心から願い――熱烈に祈ります

   しかし、250年にわたる奴隷のただ働きで築きあげた富が消え失せるまで、また、鞭打ちで流された血のことご
   とくが、剣によって流された血で購 (あがな) われるまで
戦い続けることが、神の意思であるとすれば、3000年
   前に言われたと同じ 「主の裁きは真実で、いずれにせよ正しい」 と
語り続けなければなりません。



リンカーンの第二回就任演説はジョン・ブラウン (訳注: 急進的奴隷制度廃止活動家。処刑される。1800 ― 1859)
も書くことが出来ただろう。

アメリカ人は 250年というもの奴隷を使い、信仰を守って暮らさなかったことで神の罰を受けている、とリンカーンは
言っているのである。

神の人々に対する正しい報復によって、すでに 60万人のアメリカ人の犠牲が積み重なったとリンカーンは告げた。



とはいえ第二回演説は、すべての人間の平等については触れていない。

それは、すべての人間が等しく自由の権利を持っていることを明らかにし、そして奴隷制度の廃止を謳うことに目的
があった。

独立宣言後 70年経って、平等の思想 ― 憲法、権利章典、「ザ・フェデラリスト・ペーパーズ」 いは記載されていな
かった ― が現われたわけでもない。

平等の思想アメリカ合衆国憲法法の平等保護条項という制限された形の規定となっている。


   いかなる州も、合衆国市民の特権ないし法的無答責の地位を奪う法を制定したり施行することは出来ない

   また、いかなる州も、法の適正な手続きを経ずしての、人の生命、自由、財産を奪うことは出来ない

   また、その管轄地において、人が平等に法の保護を受けられる権利を否定してはならない




意外なところからフランクフルト学派を理解する (^^;
       (http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2015-12-16 )
  ☆ 片岡義男著音楽風景より
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超大国の自殺
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  ★ 超大国の自殺 ☆ 概要
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第6章 平等か、自由か?
  ( 1建国の父たちの信じていたもの
       (http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2015-12-21-2 )
  ( 2アメリカは平等に関心を持っていたか?

  ( 3マディソン氏の沈黙

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  ( 4) 「われわれは・・・かれらを平等にはあつかえない
       ( )
  ( 5平等について――昔と今
       1963年 ― 自由の鐘をならせ
       1965年 ―自由だけでは充分ではない
  ( 6) 「不平等こそ自然である
  ( 7ドードー
  ( 8試験の点数を平等に
  ( 9試験成績における世界のギャップ
  (10異端者の火刑
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