台風3号の吹き返しで、今日は肌寒かったですが、まもなく梅雨。その後は蒸し暑い夏。猛烈な汗っかきの私としてはエアコンが欠かせません。それにつけても“電力”。ああだのこうだの、1年3カ月も経っているのに、未だにゴチャゴチャやってるだけの電力問題。
先ず、いっとう最初にやらなければいけないと思うのは、汚染地域の人たちに安全な代替え地と住居を提供すること。
自分の家に戻りたい気持ちは痛いほど分かりますが、期日が不透明な現在、そして安全だと分かった後もしばらくは、田畑で作った作物なども売れないと思うのです。頭では安全と分かっていても、他の地域の同じものが並んでいたら、そっちに手が伸びてしまうのが人情ですから。
だから思い切って代替え地を。そして一刻も早く新しい人生のスタートを。
次に考えるべきは、原子力発電所および周辺地域の安全対策。
50年近い、老朽化した設備を使用していたのだということを真っ先に考えましょう。最新式の原子炉ならば防げた事故だった、ということを考えましょう。
そして、お上が、会社が、安全だと言ったと、その言葉の上に胡坐をかいて補助金の恩恵を受けていただけの周辺地域にも、責任の一端があることを考えましょう。
万が一を考えて、医薬品の配布だけではなく、全員が避難出来るバスや施設を用意したスリーマイル島の話は、40年以上も昔の話なのです。福島に限らず、原子力発電所の周辺の地域では、今まで、そんな対策を考えて来たでしょうか。
日本の電力自給率は、わずか4%です。96%は原料の輸入に頼っている身としては、原子力発電の電力供給率20%は、大きな割合を占めていました。
それを廃止してしまうのではなく、考えられるだけの、やれるだけの安全対策を講じて、そして運転再開をして、それと同時に次世代の発電を平行させることがベストだという、そんな私の考えに合致する新聞記事があったので、転載します。
朝日新聞2012年06月06日付朝刊
オピニオン
日本よ核不拡散に動け
米プリンストン大教授
フランク・フォンヒッペルさん
1937年生まれ。物理学者で核不拡散政策の権威。
クリントン政権でホワイトハウス科学技術政策局次長。
祖父も物理学者で1925年にノーベル賞受賞。
使用済み核燃料の再処理
ウラン燃料を原子力発電で使った後の使用済み核燃料は強い放射性廃棄物であると同時に、プルトニウムを含む。
日本は再処理でプルトニウムを取り出し、燃料に使う全量再処理・核燃料サイクルを目指す。
現状、日本のプルトニウム約45トンの4分の3は過去に再処理を依頼した英仏で保管。
再処理は割高で核拡散リスクもあるため撤退する国が多い。
日本の路線をどうするかが現在議論されている。
原発プルトニウム
核兵器5千発超分
まず再処理やめよ
原子力発電所から大量に取り出される使用済み核燃料。
その中には、燃料として再利用できるプルトニウムが含まれ、それを抽出する再処理計画に、日本は長年取り組んできた。
しかしプルトニウムは核兵器の材料にもなるリスクがある。
再処理を批判してきた米プリンストン大学のフランク・フォンヒッペル教授に、日本の進むべき道を聞いた。
「被曝国の日本で、核兵器、核武装と言われてもピンと来ません。
日本の再処理のどこが、それほど問題なんですか。」
フォンヒッペル教授
「自分が核武装しないだけでなく、世界やアジアでの核拡散への対応に、日本はもっと思いをはせてほしい。
核開発疑惑があるイランはウラン濃縮を進めてきたが、仮にウラン濃縮の問題が片付いても、今度は日本と同じように再処理施設を持ってプルトニウムを利用したいと言い出しかねない。
日本がマイナスの見本になってはいけません。」
「実は韓国も再処理に強い関心を持っている。
ただ1991年の北朝鮮との共同宣言では、互いにウラン濃縮、再処理施設とも保有しない約束です。
北朝鮮が違反しているので、韓国内にはもはや宣言にはしばられないとの意見もある。
むしろ日本と同様に再処理に進みたいと。」
「中国やインドも再処理への意欲を強めています。
両国はやがて再処理施設の輸出に動くかもしれない。
世界でプルトニウムが増えると、核拡散防止も核テロ防止も今よりずっと困難になる。
日本がアメリカと同様にまず再処理を見送り、『我々もやめるから、みんなやめようよ』と呼びかければ大きな力になるでしょう。」
「使用済み核燃料のプルトニウムは核兵器用とは少し組成が違います。
核兵器の材料にならないのではとの意見も日本にはありますが。」
フォンヒッペル教授
「日本に投下された原爆を設計したアメリカのロスアラモス研究所で、理論部長を務めた専門家が、長崎型の設計に基づいて、原子力発電所からのプルトニウムを材料に核爆弾をつくる計算をした。
確率論だが、少なくとも長崎に投下された原爆の20分の1ほどの爆発力があるとの結論が出ました。
20分の1でも、破壊される面積の半径は、長崎での被害域の約4割にもなる。
進んだ設計にすれば兵器用と原子力発電用の差は縮まる。」
「世界は今、原子力発電所からのプルトニウムが約250トンも存在する。
3万発の核兵器を製造できる量です。
うち日本のものが45トンで5千発分を超えます。
このまま日本で再処理が進むと、プルトニウムが増えていきます。
余剰プルトニウムをできるだけなくすことを目指す国際的な流れに逆行します。」
◆ ◆
「将来の核保有の選択技を消さないためにも、日本はプルトニウムを扱う再処理技術を維持すべきだとの意見も一部にはあります。」
フォンヒッペル教授
「確かに『再処理は現代世界における力の通貨』という人はいる。
しかし、青森県の六ケ所村にある商業規模の再処理施設を止めることは、それと直接の関係はない。
日本には六ヶ所村とは別に、茨城県東海村に小規模の再処理実験プラントがある。
東海より小さな研究用再処理施設で核兵器を開発したインドの例もあり、もちろん賛成できないが、かりに技術的な核保有能力を語るにしても、東海の施設で十分な能力です。」
「ほかに日本がすべきことは。」
フォンヒッペル教授
「プルトニウムを使う高速増殖炉(FBR)『もんじゅ』も止めるべきです。
FBRは結局、『存在しない問題』の解決を目指したものといえる。
世界で原子力発電が急増してウランが逼迫(ひっぱく)する。
そこでプルトニウムをFBRで増殖すれば、核燃料の利用効率は何倍にもなり、ウラン不足の悩みも解消される。
これがFBRによる問題対処だったわけですが、今やその問題自体が存在していない。」
「1970年代の予想では、今頃は世界にFBRを中心に4千基の原子力発電所があるはずだったが、実際は10分の1の約430基です。
それに対してウラン資源は世界の原子力発電需要の100年分以上ある。
しかもFBRは経済性に乏しく、安全性にも課題が多いことがわかった。
FBRは世界でほぼゼロに近い状態です。」
「もんじゅは建設以来ほとんど動いていない。
これは例外ではない。
信頼性の低さは(水と爆発的に反応する)ナトリウムを冷却剤に使うから。
外国ですでに廃炉になったFBRはいずれも稼働率は低かった。
ロシア炉の稼働率は高いが、ナトリウム火災などを繰り返してもあまり運転を止めないからです。」
「FBRをやめても、再処理は続けていけば放射性廃棄物の量を減らせるとの見方もありますが。」
フォンヒッペル教授
「FBRなしで再処理に進むと、プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料にして普通の原子力発電所で燃やすことになるでしょう。
確かに使用済みMOX燃料の場合、普通の原子力発電所の使用済み燃料に比べて体積が7分の1ほどになる。
でも数十年の単位では発熱量が数倍になる。
廃棄物処理場の大きさは発熱量に左右されるので、プラスばかりではありません。」
「FBRの欠点を理解すれば、再処理の必要性も説得力がなくなります。
かつては多くの国が再処理を計画していたが、次々と中止にいたりました。
イギリスも、近く再処理をやめることを決めた。
世界でいま大規模に行われているのは民生用の再処理です。
核拡散の危険性を減らすためにも、これをやめる必要がある。」
◆ ◆
「アメリカは1970年代に再処理をやめ、その後、国が使用済み燃料の責任を負う形にしました。
イギリスも責任を持つ国の組織をつくりましたね。」
フォンヒッペル教授
「日本でも、廃棄物処理の責任を国が持つ体制をつくることを勧めたい。
そして、使用済み燃料を地上に貯蔵する施設を各原子力発電所の敷地内に国が主体でつくることを提案したい。」
「今も、使用済み燃料をプールに入れて水で冷やしていますが。」
フォンヒッペル教授
「使用済み燃料の貯蔵プールはスペースに余裕がない。
再臨界を防ぐため、中性子吸収剤を埋め込んだ箱状のものに入れて、窮屈な形で保管している。
事故や破壊行為などで冷却水がなくなると、大変危険です。
5年間プールに保管した後は、金属容器に移し、地上に置いて空気冷却で保管する乾式貯蔵を採用すべきです。
実は日本でも福島第一原子力発電所で一部、乾式貯蔵が行われていて、地震にも津波にも耐えたのです。」
「日本では、再処理を続ける理由として『再処理をやめればプールがいっぱいになって原子力発電が止まる』点がよくあげられるが、そもそもプールでの長期、凝縮貯蔵はリスクを高めるもので、変える必要がある。
アメリカでもいま乾式貯蔵が注目されています。
この中間貯蔵で半世紀ほど保管し、その時点での最新技術をいかして地下への埋設などの最終処分方を詰めればいいのです。」
◆ ◆
「日本は原発とどう向き合うべきですか。」
フォンヒッペル教授
「私はプルトニウム利用に反対だが、反原子力発電ではない。
これから原子力発電所を持とうとしている国であれば、他の発電手段を勧めるが、日本などの国が現在の原子力発電所を運転するなら、適切に安全に運転するためにもっと努力をすべきです。」
「現在の原子力発電所は十分に安全が確認されたものになっていないし、核拡散の問題も未解決です。
これまで国は原子力発電所について安全問題は解決されたと判断して、電力会社にほぼまかせきりにしてしまった。
そのかわりに国の力をプルトニウム利用、FBR開発など将来の計画に振り向けてきた。
しかし福島での事故で明らかなように、安全についてはまだまだやるべきことがあると思います。」
「日本では原子力規制当局の信頼がなくなりました。」
フォンヒッペル教授
「アメリカでも規制機関は信頼性の問題を抱えています。
かつてアメリカの原子力委員会(AEC)には原子力推進と規制の両方の機能があった。
しかし1970年代に安全性に関する情報を隠していたことがわかった。
そこでAECを解体し、規制専門組織の原子力規制委員会(NRC)をつくりました。
しばらくはうまく機能したが、最近はまた批判が強まっています。
NRCには技術的に高い専門性を持つスタッフが多くいるが、政治的には委員が産業界に近過ぎるのではとの批判も続いています。」
「日本では原子力規制庁など新たな枠組みが議論されています。
フォンヒッペル教授
「規制機関の改革は、国民の関心の高いときのみ、うまくいく。
今回の事故は日本の原子力発電政策、核燃料サイクル政策だけでなく、規制行政に重要な問題提起をした。
日本はいま、改革の好機にあります。
安全規制の組織を推進側の経済産業省から独立させ、異なった意見に進んで耳を傾け、吸収していく新しいリーダーシップが必要だと思います。
聞き手:論説副主幹・吉田文彦
編集委員・竹内敬二
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(1439) 今やるべきは。(原子力発電所問題)
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