中国に世界の逆風
「剛腕外交」に高まる警戒
2018.01.12
(jp.reuters.com/article/china-diplomacy-idJPKBN1F008A )
この一世代における中国の台頭は印象的だった。
グローバル社会の周辺から中央へと移動し、
貧しい後進国から巨大な富と権力を持つ地位へと上り詰めた。
だが、中国が国際関係で「身を低く」することにより、
世界第2の経済大国へとのし上がることに成功した
戦略的環境は変わりつつある。
そして、中国に対する逆風があちこちから吹き始めている。
習近平国家主席の下、
中国政府はより強硬的で派手な外交政策を推進し、
習氏の前任者たちが注意深く回避してきた種類の
注目を集めている。
ほんの数年前まで
中国による投資と関与を歓迎していた国々は、
今では同国の影響力に対抗する動きを見せている。
中国の台頭に有利な世界情勢は、冷戦の終結時に始まった。
ソビエト連邦崩壊を受け、
総じて西側、特に米国は、
自らが構築した世界秩序に
さらなる国を引き込もうと熱心になった。
1990年代を通じ、
通商という自由主義の力と、
ソビエト社会主義に対する西側の勝利により
「歴史の終わり」が到来したという、
米政治学者フランシス・フクヤマ氏が提唱した理論への信は、
最大限高まっていた。
結果として西側諸国の間では、
中国の独裁主義的モデルへの懸念は
ほとんど棚上げされた状態だった。
特に米国は、
中国の世界貿易機関(WTO)加盟を後押しし、
これが最終的には中国経済の成長に向けた転換点となった。
21世紀において、
米政府は戦略的関心を
専らイスラム過激派や中東、アフガニスタンに注ぎ、
欧州は通貨ユーロと欧州連合(EU)の成長に手一杯である。
日本だけが、
中国の権力への野望に
戦略的重要性を置き続けている。
この間の中国のやり方は巧妙だった。
中国がこれより数十年前に経済改革路線に着手した時、
1997年に亡くなるまで指導者の地位にあったトウ小平氏は、
後に続く指導者たちに
国際社会で目立たない地位を取り続けるよう促した。
トウ氏は、
「韜光養晦(とうこうようかい=才能を隠して時機を待つ)」
という言葉を掲げ、
実力が十分でないうちは、力を誇示することを避け、
中国の努力を外部の目から隠すことを推奨した。
中国は派手な外交を避け、
2国間関係では通商と投資に集中し、
「ウィン・ウィン」の互恵関係を常に強調して
友人を獲得した。
国連では、中国外交官は、
西側諸国の行動を巡る問題においては
一般的にロシアに主導権を委ねた。
イラク戦争への批判が世界的に高まった時には、
中国政府は好感を得る振る舞いを取り、
さらに2003年、
米国一極化に対する選択肢を構築するとして、
欧州との間で戦略パートナーシップを樹立した。
また、2009年の
中国、ロシア、インド、ブラジルの
新興4カ国によるBRICs首脳会議により、
新興国にとって
中国は西側以外の「信頼できるパートナー」だ
とする立場は強化された。
こうした期間を通じ、
また富や力が増していたにもかかわらず、
中国はその真意について適度な曖昧さを保ち、
パートナー諸国の中の懐疑派を不満がらせた。
オーストラリアの鉱山から
欧米の大学に設置された孔子学院まで、
拡張は続いた。
過去5年で、これらのほぼ全てが逆転した。
非直接的な外交上の示唆は、
目立ちたがりな提案に取って代わられた。
戦略的曖昧さはうち捨てられて、
国外軍事拠点や、
大規模な軍事演習、
派手なパレードや
隣国との対立が頻発している。
国から巨額融資を受けた中国企業は
国際買収ツアーに繰り出し、
ニューヨークのウォルドーフ・アストリア・ホテルや、
米複合大手ゼネラル・エレクトリック(GE)の家電事業、
欧自動車ボルボなどの著名メーカーを買収。
西側の議員の間で、
買収で
重要な商業資産に中国政府の影響が及ぶ可能性への
懸念が浮上している。
アフリカでも、
中国の投資は、パートナーシップや投資よりも、
資源国でむき出しの政治的影響力を獲得し、
不公平な労働慣行を輸出することが目的ではないか
との懸念が増大している。
2017年秋に中国共産党大会で実権を固めて以降、
習主席はこうした転換を加速させているように見える。
中国共産党の中央統一戦線工作部は、
国外の大学で学ぶ中国人留学生向けガイドラインを
実践し始めた。
9月には、
米カリフォルニア大学サンディエゴ校の中国人研究者が、
大学側がチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世を
卒業式のスピーカーとして招いたことを受け、
中国教育省の支部が資金提供を停止したと表明。
中国共産党の教義に反する観点を抑圧しようとする
中国政府の意向と解釈されている。
中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」では、
巨額の対外インフラ投資が計画されており、
最近この一環で、
スリランカの港の所有権を中国が入手した。
中国側が要求した極めて負担の重い条件で、
スリランカ側の企業が破綻したことが原因だった。
地元の反発は大きく、
中国とスリランカのさらなる協力関係が批判の的となり、
中国の投資を受ける他の国に警鐘を鳴らしている。
中国はかつて、
パートナーシップや
「西側帝国主義」への抵抗を象徴する存在として
自国のイメージを広めようとしていた。
だが習主席はそれを捨て、
自国の行動が他国にどう受け止められるかなど
気に留めない、
自信に満ちた誇り高い強国のイメージで
塗り替えようとしている。
明らかに彼は、それが党の政治的利益にかなうとみている。
共産党は、国内での地位を強化するため
国家主義的な言葉を使う傾向がある。
米国では、通商面での反中機運の高まりにより、
米政府が新たな戦略で
中国を敵対的「修正主義勢力」に位置付けたほどだ。
過去には、もっと柔らかな表現が用いられていた。
カナダとオーストラリアの政治家は、
国内への中国勢の進出を
大きな疑惑の目で見始めている。
オーストラリアでは最近、
中国系ビジネスマンからの上院議員への資金提供に絡む
スキャンダルが発覚し、
政府が外国人による政党への寄付を禁止する方針を打ち出した。
一帯一路に参加し、
普段は緊密な同盟関係にあるパキスタンでさえ、
中国の「過剰な約束と、不十分な実行」を
被る立場にある。
中国は、
パキスタンとの「経済回廊」プロジェクトの一環である
大規模道路建設計画3件について、
突然資金拠出を停止したと報じられている。
そしてマクロン仏大統領はまさに今週、
一帯一路は
「交差する国を臣下にしてしまう新たな覇権」であってはらない
と述べ、中国に異例の警告を発した。
中国のプロジェクトに対する他の反発も
始まりにすぎない可能性がある。
現代中国が、
その動機と目的について、
西側と途上国側から同時に疑いの目を向けられたことは
これまでなかった。
中国外交官は、
批判を受け止めるよりも、
避けたりかわしたりすることに長けており、
共産党内の政治は、
ほぼ完全に「核心的利益」を守ることを要求している。
だがそれは、
世界のもっともな外交懸案に取り組み始めなければいけない国にとって、
好ましい姿勢ではない。
中国政府がこの逆風にどう対応するかで、
中国がどのような国を目指しているのか、
また、世界における新たな役割をどう果たしていくかが
明らかになるだろう。
「剛腕外交」に高まる警戒
2018.01.12
(jp.reuters.com/article/china-diplomacy-idJPKBN1F008A )
この一世代における中国の台頭は印象的だった。
グローバル社会の周辺から中央へと移動し、
貧しい後進国から巨大な富と権力を持つ地位へと上り詰めた。
だが、中国が国際関係で「身を低く」することにより、
世界第2の経済大国へとのし上がることに成功した
戦略的環境は変わりつつある。
そして、中国に対する逆風があちこちから吹き始めている。
習近平国家主席の下、
中国政府はより強硬的で派手な外交政策を推進し、
習氏の前任者たちが注意深く回避してきた種類の
注目を集めている。
ほんの数年前まで
中国による投資と関与を歓迎していた国々は、
今では同国の影響力に対抗する動きを見せている。
中国の台頭に有利な世界情勢は、冷戦の終結時に始まった。
ソビエト連邦崩壊を受け、
総じて西側、特に米国は、
自らが構築した世界秩序に
さらなる国を引き込もうと熱心になった。
1990年代を通じ、
通商という自由主義の力と、
ソビエト社会主義に対する西側の勝利により
「歴史の終わり」が到来したという、
米政治学者フランシス・フクヤマ氏が提唱した理論への信は、
最大限高まっていた。
結果として西側諸国の間では、
中国の独裁主義的モデルへの懸念は
ほとんど棚上げされた状態だった。
特に米国は、
中国の世界貿易機関(WTO)加盟を後押しし、
これが最終的には中国経済の成長に向けた転換点となった。
21世紀において、
米政府は戦略的関心を
専らイスラム過激派や中東、アフガニスタンに注ぎ、
欧州は通貨ユーロと欧州連合(EU)の成長に手一杯である。
日本だけが、
中国の権力への野望に
戦略的重要性を置き続けている。
この間の中国のやり方は巧妙だった。
中国がこれより数十年前に経済改革路線に着手した時、
1997年に亡くなるまで指導者の地位にあったトウ小平氏は、
後に続く指導者たちに
国際社会で目立たない地位を取り続けるよう促した。
トウ氏は、
「韜光養晦(とうこうようかい=才能を隠して時機を待つ)」
という言葉を掲げ、
実力が十分でないうちは、力を誇示することを避け、
中国の努力を外部の目から隠すことを推奨した。
中国は派手な外交を避け、
2国間関係では通商と投資に集中し、
「ウィン・ウィン」の互恵関係を常に強調して
友人を獲得した。
国連では、中国外交官は、
西側諸国の行動を巡る問題においては
一般的にロシアに主導権を委ねた。
イラク戦争への批判が世界的に高まった時には、
中国政府は好感を得る振る舞いを取り、
さらに2003年、
米国一極化に対する選択肢を構築するとして、
欧州との間で戦略パートナーシップを樹立した。
また、2009年の
中国、ロシア、インド、ブラジルの
新興4カ国によるBRICs首脳会議により、
新興国にとって
中国は西側以外の「信頼できるパートナー」だ
とする立場は強化された。
こうした期間を通じ、
また富や力が増していたにもかかわらず、
中国はその真意について適度な曖昧さを保ち、
パートナー諸国の中の懐疑派を不満がらせた。
オーストラリアの鉱山から
欧米の大学に設置された孔子学院まで、
拡張は続いた。
過去5年で、これらのほぼ全てが逆転した。
非直接的な外交上の示唆は、
目立ちたがりな提案に取って代わられた。
戦略的曖昧さはうち捨てられて、
国外軍事拠点や、
大規模な軍事演習、
派手なパレードや
隣国との対立が頻発している。
国から巨額融資を受けた中国企業は
国際買収ツアーに繰り出し、
ニューヨークのウォルドーフ・アストリア・ホテルや、
米複合大手ゼネラル・エレクトリック(GE)の家電事業、
欧自動車ボルボなどの著名メーカーを買収。
西側の議員の間で、
買収で
重要な商業資産に中国政府の影響が及ぶ可能性への
懸念が浮上している。
アフリカでも、
中国の投資は、パートナーシップや投資よりも、
資源国でむき出しの政治的影響力を獲得し、
不公平な労働慣行を輸出することが目的ではないか
との懸念が増大している。
2017年秋に中国共産党大会で実権を固めて以降、
習主席はこうした転換を加速させているように見える。
中国共産党の中央統一戦線工作部は、
国外の大学で学ぶ中国人留学生向けガイドラインを
実践し始めた。
9月には、
米カリフォルニア大学サンディエゴ校の中国人研究者が、
大学側がチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世を
卒業式のスピーカーとして招いたことを受け、
中国教育省の支部が資金提供を停止したと表明。
中国共産党の教義に反する観点を抑圧しようとする
中国政府の意向と解釈されている。
中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」では、
巨額の対外インフラ投資が計画されており、
最近この一環で、
スリランカの港の所有権を中国が入手した。
中国側が要求した極めて負担の重い条件で、
スリランカ側の企業が破綻したことが原因だった。
地元の反発は大きく、
中国とスリランカのさらなる協力関係が批判の的となり、
中国の投資を受ける他の国に警鐘を鳴らしている。
中国はかつて、
パートナーシップや
「西側帝国主義」への抵抗を象徴する存在として
自国のイメージを広めようとしていた。
だが習主席はそれを捨て、
自国の行動が他国にどう受け止められるかなど
気に留めない、
自信に満ちた誇り高い強国のイメージで
塗り替えようとしている。
明らかに彼は、それが党の政治的利益にかなうとみている。
共産党は、国内での地位を強化するため
国家主義的な言葉を使う傾向がある。
米国では、通商面での反中機運の高まりにより、
米政府が新たな戦略で
中国を敵対的「修正主義勢力」に位置付けたほどだ。
過去には、もっと柔らかな表現が用いられていた。
カナダとオーストラリアの政治家は、
国内への中国勢の進出を
大きな疑惑の目で見始めている。
オーストラリアでは最近、
中国系ビジネスマンからの上院議員への資金提供に絡む
スキャンダルが発覚し、
政府が外国人による政党への寄付を禁止する方針を打ち出した。
一帯一路に参加し、
普段は緊密な同盟関係にあるパキスタンでさえ、
中国の「過剰な約束と、不十分な実行」を
被る立場にある。
中国は、
パキスタンとの「経済回廊」プロジェクトの一環である
大規模道路建設計画3件について、
突然資金拠出を停止したと報じられている。
そしてマクロン仏大統領はまさに今週、
一帯一路は
「交差する国を臣下にしてしまう新たな覇権」であってはらない
と述べ、中国に異例の警告を発した。
中国のプロジェクトに対する他の反発も
始まりにすぎない可能性がある。
現代中国が、
その動機と目的について、
西側と途上国側から同時に疑いの目を向けられたことは
これまでなかった。
中国外交官は、
批判を受け止めるよりも、
避けたりかわしたりすることに長けており、
共産党内の政治は、
ほぼ完全に「核心的利益」を守ることを要求している。
だがそれは、
世界のもっともな外交懸案に取り組み始めなければいけない国にとって、
好ましい姿勢ではない。
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また、世界における新たな役割をどう果たしていくかが
明らかになるだろう。
*筆者は、ニューヨークのシンクタンク
「The Metropolitan Society for International Affairs」の創設者。
*筆者はロイターのコラムニストです。
本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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