【野口裕之の軍事情勢】
テロに備える米大統領令と
テロはないと信じる日本国憲法
憲法の「告別式」挙行を
突き付けたトランプ政権
2017.02.06
(www.sankei.com/premium/news/170206/prm1702060006-n1.html )
1月25日、ワシントンの国土安全保障省で、
署名した大統領令を見せるトランプ米大統領 (ゲッティ=共同)
米国のドナルド・トランプ大統領は、
ジェームズ・マティス新国防長官の就任式 (1 月) 後、
国防総省で
「アメリカ合衆国から
イスラム過激派テロリストを締め出す
新しい審査制度を確立する」
方針を公言した後、こう続けた。
「この国を支援し、
国民を深く愛する人しか、
この国に入れたくない」
対照的なくだりが日本国憲法前文である。
いわく ――
《(日本国民は)
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、
われらの安全と生存を保持しようと決意した》
日本国憲法は、
「イスラム過激派テロリスト」 など
地球上にはいないと保証している。
トランプ発言と日本国憲法を、
冒頭紹介した部分に特化して比較すると、
トランプ発言が 「まとも」 で、
日本国憲法は 「まともではない」 と、
常識人なら判定する。
トランプ氏は 1 月末、
「イスラム過激派テロリストを締め出す」
新しい入国審査制度の導入を命令。
難民・移民の受け入れ停止や凍結など命じる
大統領令に署名した。
大統領令には、
評価できる部分と
批判しなければならない部分が
混在している。
ロイター通信が全米 50 州で実施した世論調査は
49% の人が賛成し、反対の 41% を上回った。
今次小欄のテーマではないので、大統領令の是非は論じない。
ハッキリしているのは、
日本ほど
安全保障・危機管理を甘く見て、
不必要な制限を課している主要国は
地球上に存在しない、という目の前の現実。
「戦犯」 は日本国憲法で、
わが国の主権と国民の生命・財産を
危険にさらしている。
ところで、トランプ氏の大統領当選は
「ポリティカル・コレクトネス
= 政治的な正しさ/政治的な行儀の良さ」
にウンザリしていた米国民が後押ししたことが、
背景の一つだといわれる。
ポリティカル・コレクトネスとは
一般論で言えば、
政治的・社会的に公正・公平・中立的で、
差別・偏見が含まれていない言葉を使う潮流
を指す。
職業・性別・文化・人種・民族・宗教・肉体的障害…
などに基づく差別・偏見を防ぐのが目的だ。
米国との比較は難しいが、
日本でも
アンパンマンは性差別で、
正しくは 「アンパンパーソン」 だとの議論がある。
こちらも、今次小欄のテーマではないので、議論はしない。
だが、現実を無視し、
社会に対する常識的かつ柔軟な対応を拒絶すると、
バーチャル (仮想的) 世界に迷い込む。
その種の連中は日本にもいる。
「平和憲法」 を
国家の存立・存続や国民の生存の上位にまつり上げ、
改憲勢力を 「アカデミズムと対極の右翼」 とさげすんで悦に入る、
憲法学者や政治家、メディアを中心とする
「憲法上の正しさ」を 気取るサヨク。
そろそろ、お引き取り願いたい。
さもないと、トランプ政権が、
日米同盟を論拠に国際レベルの集団的自衛権行使など、
安全保障上の国際常識を求めてくる事態に対処できない。
安倍晋三首相は
「(日米安全保障) 条約は紙に書いてあるものだが、
信頼関係があって初めて魂が入り、実効性を持つ」
と力説するが、現行憲法は
「信頼関係を損ない、
条約には魂も入れられず、
条約をタダの紙にする」。
トランプ政権の安全保障上の要求を受け入れるかどうかは、
主権国家たるわが国の決心だ。
しかし、日本側の拒否が予想される事項の多くは、
終戦後の
主権国家とは言えなかった占領下における憲法成立過程で、
憲法の権能を超越する
絶大な権力を有した GHQ (連合国軍総司令部) や進駐軍が
「代行する想定」 で抜け落ちた、
安全保障上の条項が元凶となっている。
この欠陥憲法こそ、
大東亜戦争 (1941年~1945年) で
米国と互角の死闘を繰り広げた日本国民の愛国心を
骨抜きにする陰謀を成就させる 「最強兵器」 だった。
果たして、
憲法の米国人門外漢が 9 日間で即製した欠陥憲法を、
反米のはずのサヨクが今なおあがめている。
そんないかがわしい日本国憲法の出自など、
トランプ氏は知る由もない。
それゆえ、安全保障上の要求拒否のヤマを積み上げれば、
貿易・金融面での巨大な譲歩を強いてくる恐れがある。
トランプ氏の日米貿易不均衡批判に対し、
安倍首相は
「反論すべきところは反論していきたい」 と明言したが、
安全保障面での義務を果たせなければ、
経済・金融面での “対米従属” が強まり、
「占領時代」 の様相を帯び始める。
占領時代に完全に決別すべく、
憲法施行後 70 周年の今年、
遅ればせながら、
現行憲法の 「告別式」 への準備年としようではないか。
いまだにGHQにすがる
反米憲法学者
GHQ や進駐軍が 「代行する想定」 で憲法より抜け落ちた
象徴的規定は、例えば 《国家緊急権》 だ。
侵略や大規模テロ、超弩級の自然災害といった
未曾有の危機に際し、
国家主権や国民の生命・財産を守る重大な権利が
70 年も放置されてきたとは 「恐ろしい」。
放置を助長してきた主力の、
「憲法上の正しさ」 を気取るにサヨクの皆様は、
緊急権の制定が 「恐ろしい」 と意図的に宣伝しており、
少なくとも
「ポリティカル・コレクトネス
= 政治的な正しさ/政治的な行儀の良さ」
はみじんもない。
サヨクが 「恐ろしい」 と誇張し続けるのは、
緊急権が行使されると、
一時的ながら基本的人権の制限や権力分立の
停止を伴う可能性があるからだ。
だが、未曾有の危機にあっては、
基本的人権の一時的制限や
権力分立の一時的停止こそ
「憲法・法律上の正しさ」 だ。
2015 年 11 月 13 日夜に、
パリで起きた同時多発テロを例に採って説明しよう。
同時多発テロでは、130 人以上の死者と 400 人近い負傷者が出た。
フランス政府は 《非常事態法》 に基づき、
《非常事態宣言》 を発令し、一部の権利を制限した。
制限内容を紹介する前に、仏政府が採った措置の概要を検証する。
テロ翌日の 14 日、仏大統領は
テロが 《イスラム国》 の犯行だと断定し、
12 日間の非常事態を宣言 (後に、情勢に鑑み延長) した。
16 日の議会演説では、
シリアで計画 ⇒ ベルギーで組織 ⇒ フランス人らが実行 ――
との骨格を明らかにした。
この時点で 168 カ所の捜索で 28 人を身柄拘束。
死亡した実行犯 7 人中 4 人の身元を洗い出した。
さらに主犯を特定し、逃亡犯 1 人も指名手配する。
早くも 18 日には主犯のアジトを 120 人で急襲し、
銃殺や自爆で死亡した主犯ら 2 人を除く
7 容疑者を拘束した。
一味はパリのビジネス街で次の大規模テロを計画していて、
続けざまの大惨事を
未然に防いだ功績は極めて大きい。
功績の第一等は非常事態宣言である。
まず、裁判所の令状をもらわず家宅捜索を実施した。
通常の司法手続きでは、168 カ所の証拠をそろえ、
裁判所に提出せねばならぬ。
その間に犯人は逃げ、第二・第三のテロをやる。
司法上の逮捕ではなく、行政上の予防的拘束は不可欠だった。
宣言後、3 週間弱で 2,200 カ所を捜索し、260 人以上を拘束した。
通信傍受はじめ
飲食店や劇場など人の集まる施設を封鎖し、
デモや集会も禁じた。
実際、2015 年 11 月末に始まった
国連気候変動枠組み条約締約国会議に合わせ、
デモを予定した環境活動家も外出禁止となった。
驚くべきは、
イスラム教予言者ムハンマドの風刺画が刊行されるほど
自由・個人主義を尊重するフランスで、
宣言延長への支持は 91% に達した。
いわれなき暴力による惨禍に、思想の左右を問わず
怒りの声が国中を席巻した結果だ。
民主国家は 「立憲主義に反する」
と叫ぶサヨク
ところが、
左傾斜する日本の憲法学者や政治家、メディアは
「緊急権は立憲主義に反する」 と、連呼する。
ということは、91% のフランス人が
立憲主義を踏みにじったことになる。(← wwwww)
それだけではない。
西修・駒澤大学名誉教授によれば、
1990 年以降制定された 102 カ国の憲法
全てに緊急事態条項が設けられている。
102 カ国には、前述のフランスやドイツも含まれる。
サヨクの目を通すと、
民主諸国を含む 102 カ国は
全て立憲主義国家ではなくなるのだ。
というと、サヨクはすぐに
ドイツ総統アドルフ・ヒトラー (1889年~1945年) を
墓場より引きずり出し、(← \(^o^)/wwwww)
ヒトラーの緊急権乱用を持ち出す。
が、論破はいとも簡単だ。
確かに、当時のドイツ憲法は
《国内で公共の安全・秩序に著しい障害が生じ、
またはその恐れがあるとき、
大統領は公共の安全・秩序維持に必要な措置を採れる》
と定めた。
けれども、大統領に許されるのは
安全・秩序回復の 《行政措置権》 のみで
《立法措置権》 の緊急命令は含まれなかった。
だのにドイツ政府は緊急命令権を含むと違憲解釈し、
小党乱立で議会の立法機能が不全に陥るや、
“緊急命令” が議会の立法権に優先し乱発される。
大統領の絶大な権力を悪用し政権掌握したのがヒトラーだった。
断じて緊急権が危険なのではない。
しかも、ナチス台頭の
深い反省の上に練られた現行ドイツ基本法 (憲法) でも
緊急事態条項は担保された。
サヨクはテロに怒らず、改憲の動きを怒る。
改憲を阻止すべく、ヒトラーとともに持ち出すのが
「緊急時の対応は
既に災害対策基本法や国民保護法などで定められている」
との “理屈”。
東日本大震災 (2011 年) 直後、
現地では
水/食料/ガソリン ―― 生活必需物資が圧倒的に不足した。
そこで 《災害対策基本法》 が認める 《物資の統制》 に向け、
法律と同等の権能を有す 《緊急政令》 を発出せんとしたが、
菅直人内閣は躊躇った。
「国会が閉会中でなかった」 と繕うが、
内閣府参事官が以下の主旨で本当の理由を答弁している。
「憲法で保障された
(経済取引の自由や財産権に象徴される)
国民の権利や自由を安易に制限するわけにはいかない」
法律で 《権利・自由の制限》 が担保されても、
憲法に根拠規定がなければ “違憲” とされる可能性があり、
緊急権発動は難しいとの判断だ。
判断に従うなら、緊急権発動は改憲が大前提なのに、
そっちも事実上 「ご法度」 だという。
これでは、災害対策基本法を参考に、
大規模テロ発生時、内閣が期間限定で緊急政令を発令できるよう
《テロ対策基本法》 を制定しても、効力を発揮しようがない。
また、集団的自衛権の限定的行使が可能となった
《安全保障関連法》 が施行されたが、実効性が懸念される。
「憲法のためなら死んでもいい」
憲法改正に異常なほどの時間がかかるのであれば、
フランスや英国、米国のように
個別の法律を制定したいが、こちらも困難を伴う、ということだ。
「健康のためなら死んでもいい」 という健康ブームへの皮肉を聞く。
同様に、サヨクは 「憲法のためなら死んでもいい」 と、
真面目?に考えている。
国家・国民を守るために憲法が存在するのではなく、
「憲法様」 を守るために国家・国民があるのだ。
ただし、この場合の国民とは 「個人」 と同義ではない。
常識人には随分とややこしいが、サヨクの考え方はこうだ。
《個人の権利・自由は自然権で憲法以前の存在
⇒ 従って、個人の権利・自由の保障に備え憲法がある
⇒ つまり、個人の権利・自由が最重要で、
個人の権利・自由を保障ができぬのなら
国家消滅も許される》
国民の生命・財産は憲法の下位だが、
「個人」 の権利・自由は憲法の上位に位置付け、
使い分けるのである。
言い換えると
《百歩下がって緊急権を認めるとしても、
国家存亡の危機を視野に入れてはダメで、
個人の権利・自由を担保する目的に限定される》
ということに。
では、
敵国の侵略を受けた場合、
「個人」 はどう動くのか。
《武器を取って立ち向かうか、
降伏するか、
亡命するかは
個人が決める》
小欄は、
国家・国民の存立・存続こそ自然権であり、
憲法は自然権を担保するもの、と思っている。
なぜ、サヨクは権力の活用を過剰に忌避するのか?
東日本大震災で 10 万人超もの自衛隊を筆頭に
警察・消防・海上保安庁などの人員が投入されたが、
政府による動員命令 = 権力の行使が祖国を救ったのだった。
サヨクが憲法と心中したいのなら、常識人を巻き込まないでほしい。
ロサンゼルス港の戦艦アイオワで演説するトランプ氏
=2015年9月15日、ロサンゼルス港
オスプレイを使って自衛隊員らが日米共同訓練を行った
=平成25年10月16日、滋賀県高島市 (松永渉平撮影)
銃撃戦が発生したパリ近郊のサンドニの現場では
多くの仏警察が駆けつけた=2015年11月18日、仏サンドニ (大西正純撮影)
テロ犯潜伏先の制圧現場となったパリ北郊のサン・ドニで
警戒にあたる仏軍兵士=2015年11月18日 (大西正純撮影)
観光名所のエッフェル塔は正午を過ぎても開館されず、
周囲を仏警察、軍が警備していた
=2015年11月17日、仏パリ (大西正純撮影)
ベルギーとフランスを結ぶ高速列車が発着するパリ北駅で、
テロリストの出入りを阻止するため厳戒態勢を敷く警察要員
=2015年11月16日、仏パリ (大西正純撮影)
東日本大震災で壊滅的な被害を受けた地区で
行方不明者の捜索を続ける自衛隊員
=平成23年4月1日、宮城県名取市 (宮川浩和撮影)
東日本大震災の被災地でがれき撤去などに当たる自衛隊員
(近畿中部防衛局提供)
◆ 【パリ同時多発テロ】 オランド大統領 「非常事態」 を宣言
(natsunokoibito.blog.fc2.com/blog-entry-2437.html )
この時、テロ事件とは別に、
日本には無い 「非常事態宣言」 が即座に為されたこと、
羨ましかったですねぇ・・・
◆ 日本国憲法に規定なき条項
(natsunokoibito.blog.fc2.com/blog-entry-1497.html )
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◆ テロはないと信じてる日本の憲法
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