パトリック・J・ブキャナン著/河内隆弥訳
超大国の自殺
― アメリカは、2025年まで生き延びるか? ―
2012年11月5日 第1刷発行 幻冬舎
第1章 超大国の消滅
(6) 債務の爆弾は誰が作ったのか?
「金銭の貸主になるな、借主になるな」
とシェークスピアのポローニアスは言う。
しかし、グレート・ジェネレーション
(訳注: 大恐慌の欠乏時代に生まれ第二次大戦を戦った世代)
がバトンをベビー・ブーマーに渡すと、我々はその両方になった。
乗用車ローンは、GM、フォード、クライスラーの金融子会社から、
余裕のない階層に、当初 6カ月の金利はゼロで貸し出された。
学資ローンが
大学を終了する経済的な自信のない高校卒業生に
惜しみなく与えられた。
大学の最上級生には
依頼がなくてもクレジット・カードが発行された。
現金の乏しい州政府は、
経済的支出をまかなうために債権を発行した。
ブッシュ 2世の時代、合衆国政府は、
減税、
2つの戦争、
メディケア・ドラック・ベネフィット
(医療保険薬剤給付)、
ノ―・チャイルド・レフト・ビハインド
(すべての子どもを落ちこぼれにしない法)、
そしてフレッド・バーンズが 20年前に歓迎した
「保守の大きな政府」 のために、
2兆 5千億ドルの赤字を作った。
しかし、ブッシュのときに破裂したのは住宅バブルだった。
それは株式、債券市場を直撃し、
米経済そのものを道連れにした。
住宅バブルは、
サブプライム・モーゲイジと呼ばれるものの発明で始まった。
社会の新たな不平等に着目したジョージ・W・ブッシュは、
この担保の仕組みを評価して促進した。
このことを発表するため、
彼は、増加するマイノリティの自家保有奨励会議を
ホワイトハウスで開催した。
2002年 10月 15日、ジョージ・ワシントン大学で、
ブッシュは、
10年後に人類を月面に送ると約束した J・F・ケネディにならい、
新しい国家目標を宣言した。
ここアメリカには 1 つの問題がある。
ヒスパニックの半数弱、アフリカ系アメリカ人の半数しか、
自分の家を持っていない。
自家保有のギャップである・・・
この国をよくするため、より希望の持てる未来のため、
われわれは一緒に働いて行こう。
自家保有ギャップを作る障害を、みんなで取り除いて行こう。
私は大きな目標を掲げた・・・
これから 10年かけて、
マイノリティの自家保有者を 550万世帯増加させる
(拍手) ・・・。
そしてそのためには、
ハウジング産業の関連各位の強力なご協力をお願いする。
この計画のどこが悪いのだろうか?
第一、これは表面的な分析に基づいている。
白人の持家割合 75% に対して、
ヒスパニックは 47% というが、
アメリカ人白人と、
地元生まれのヒスパニックとを
比べると、
その差は 5% に過ぎなくなる。
昔から移民が自家保有比率を引き下げている。
コラムニストのラリー・エルダーが指摘するように、
「1990年の国勢調査は・・・
中国人移民は、
サンフランシスコ、ロスアンジェルス、ニューヨークの
白人の自家保有割合を
約 20% 上回っているようである。」
銀行は中国人に有利なように白人を差別しているのだろうか?
黒人の自家保有に関するこういった 「障害」 について、
エルダーは書く。
黒人の一部が住宅ローンの適格性を持たない
主な理由について、ブッシュはうまく説明していない。
それは債務の履行が芳しくないからである。
US ニューズ & ワールド・リポートは、
1999年に連銀が保有するフレディ・マック
(連邦住宅金融抵当公庫)
の報告で、
黒人の 48%、白人の 27% のが債務不履行に陥った
と報道していることを見つけ出した。
同じ年、ワシントン・ポストは、
黒人の年収 6万5千ドルから 7万5千ドルの層の
レーティング (格付) は、
白人の年収 2万5千ドル以下の層の格付を
下回っていることを発見した。
ナショナル・アーバン・リーグ
(訳注:1910年に設立された
マイノリティ支援、人権擁護の NPO)
の、ヒュー・プライスですら述べている。
「債務で事故を起こすと、もう融資は受けられない。
一巻の終わりだ」。
自家保有資格
――年齢、所得、居住期間、担保付融資申請者の信用格付――
における人種的不均衡の、真の要因を無視して、
ブッシュ政権は、
かつて議会が地域再投資法で推進したのと同じ
自殺行為の方向へ走ろうとしていた。
地域銀行は、
数十年来の経験から得られた基準を
満たしていない住宅購買希望者に、
担保貸出を実効するよう圧力をかけられたのである。
そのとき、
数百万件にも達するサブプライム・モーゲイジ・ローンが、
供与銀行から、
ファニー・メイ (連邦住宅抵当公庫) とフレディ・マックに
売却された。
こうして銀行はフレッシュ・マネーを手に入れて、
もっとリスクのある担保貸出に回し、
ファニーとフレディに売却し続けた。
そして担保貸出は束ねられて証券となり、
ウォールストリートの銀行に売られた。
ブームとなった、
アメリカの住宅市場という実物不動産を裏付けとする、
利益を生む証券保有を、
バランスシートに載せることに銀行は熱意を持っていた。
ブルームバーグのベティ・リウとマシュー・レイジングが
報告している。
1998年から 2008年にかけて、
ファニー・メイ、フレディ・マックと連邦住宅貸付銀行の
債務は毎年平均 1840億ドル増加した。
これが2000年から 2006年半ばに至る
S & P / ケース=シラー国内価格指数の
107% の上昇の後押しをした。
ブッシュ演説からまだ 4年が経たない
2006年の半ばまでに、
マイノリティの自家保有は、270万戸、増加した。
ウィークリー・スタンダードは、
「格差は埋まる
―― ブッシュ政権、持家促進の静かな成功」
という記事で華々しく肩を持った。
世界最大の金融、保険会社、ニューヨークに本拠をおく AIG は、
住宅市場が崩壊したときの
銀行の損失を補填する保険を売り出した。
リスクは僅少と思われ、従って保険料も少額だった。
しかし、保険金支払いが始まると、
それは AIG の体力をはるかに上回った。
コネチカットとロンドンにある同社の金融商品部門では、
若い魔術師たちが損失に備えて
クレジット・デフォルト・スワップの発明にいそしんでいた。
連邦準備銀行は、
金利の低位維持、貨幣増発によってゲームを続け、
国内価格が年率 10、15、20% と上昇する
バブルを生みだした。
経済が過熱してくると、連銀はブレーキを踏み始めた。
金融は引き締まり、貸出条件はきびしくなった。
住宅価格は上げ止まり、そして下がり始めた。
サブプライムによる自家保有者は、
「動く」 こともできず、家を売ることも出来なくなった。
そして元金の支払時期がやってきた。
人々は家を出はじめた。
バブルは庶民に真実を気づかせた。
住宅価格は上がると同様に下がることもある、と。
そして、世界中の銀行が買った担保に裏付けられた証書は、
すべて過大評価されていて、
中には価値がないものもかなりある、
と言われるようになった。
住宅価格が貸付価格の額面を下回るにつれ、
住宅所有者が次から次へと、銀行に鍵を返送し始めた。
瓦解が来た、そしてパニックが続いた。
1929 ~ 1933年以来、最大の、この瓦解の責任者誰だろう?
その名は、「みんな」 である。
サブプライム貸出をした銀行。
政治的行為と受け止められた、
ごり押し、約束、ないし、ファニー・メイ、フレディ・マックに
証書を引き渡す行為なくして、ローンなど受けられない階層に
借金することを煽り立てた政治家たち。
政治資金の供与で政治家をたらし込み、
数千億ドルの負債を納税者に押しつけて難局を切り抜けた、
ファニーとフレディ。
そしてウォールストリートの銀行家たちである。
彼らはサブプライム・モーゲイジに裏付けられた証券を買い込んだが、
証券を審査することについては、あまりにも無知で怠け者で、
または単に強欲だった。
ムーディーズとか、スタンダード & プアーズといった、証券を診断して、
それを AAA に等級づけた格付機関もあった。
端的にいって、現世代の政界、金融界のエリートは、
この大国を導くのに相応しくない、ということが露呈されたのである。
社会的障害に根ざすシステム障害があったのだ。
この災厄の背後には、巨大な規模の、
強欲、愚鈍、無能力が、存在していた。
「貪欲、野心は」 と、ジョン・アダムス
(訳注: 米国第 2 代大統領)
は言った。
「クジラが捕獲網を食い破るが如く、
わが憲法の最強の靱帯を破る。
わが憲法は、
倫理的で、信仰心の厚い者たちの為にのみ、作られた。
それは政府とか、その他のものには
全く不適当なものなのである」。
なるほどねぇ・・・
あの、麻生太郎総理大臣が誕生した、1 カ月後に、
世界を激震させた金融恐慌。
麻生首相は何をさておき、日本丸を沈没させない手を打ちました。
そのお陰で、
他の国々に比して日本はさほどのショックを受けませんでしたが、
アメリカはもとより、
EU 諸国にしても、未だにそれが清算できていません。
思いが蘇ります。
あの時の麻生首相に対して
日本国民が述べたお礼は、
「アホの太郎」 でした。
1929 年の 「ブラック・マンデー」 は、
その清算を第二次世界大戦に委ねました。
が、今回は人道だとか平和だとかで、
世界戦争を回避しています。
結局、その隙間から抜きん出て来たのは、
やっぱり中華人民共和国、ただ一人。
そういえば中華文明には、
「借りたものを返す」
という文化は無いのだそうで、
バブルがはじけるのか、はじけないのか、分からないと、
古田教授が書かれていましたっけw
南米から続々と北上して、
近い将来、アメリカの白人の数を抜くとされている、
今は、マイノリティの、ヒスパニックたちにも、
「返す」 という文化が希薄なのでしょうか・・・
自分の価値観だけで、
すべての民族を同じだと判断すると、
世界恐慌が起きたりする。
社会主義、共産主義の人たちには、
しばしば、その気がありますね。
自分の価値観だけで、
地球上の人類がみな同じだと思い込んでる。
資本主義国家のはずだったアメリカが、
いつの間にか共産主義国家になっている・・・
もくじ
(hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2017-01-28 )
日本語版への序文
序文
まえがき 分裂してゆく国家
1 超大国の消滅
2 キリスト教国アメリカの死
3 カソリックの危機
4 白いアメリカの終焉
5 人口統計の示す冬
6 平等か、自由か?
7 多様性 (ディヴァーシティ) カルト
8 部族主義 (トライバリズム) の勝利
9 「白人党 (ホワイト・パーティ)」
10 緩慢な後退
11 ラスト・チャンス
謝辞
訳者あとがき
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◆ 超大国の自殺 ( 8) 第1章 ⑥ 債務の爆弾は誰が作ったのか?
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