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◆ (40) 第五章 ⑧ 隠喩としてのイスラエル

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DISTURBED ~ The Sound Of Silence
――1965-SIMON & GARFUNKEL
Billboard TOP 25 HOT ROCK SONGS (2016.08.27付)
No.8  (Non-mover | 38weeks in chart)



パトリック・J・ブキャナン著
宮崎哲弥監訳
病むアメリカ、滅びゆく西洋
2002年12月5日 成甲書房



第五章 大量移民が西洋屋敷に住む日

8. 隠喩メタファーとしてのイスラエル



かつて米国にとってのパナマ運河地帯、英国にとってのローデシア、南アフリカ共和国がそうであったように、今日イスラエルは西洋全体の縮図、メタファーと言っていい。



イスラエルは 1948年の独立戦争で領土を拡大、1967年にはエジプトのナセルと国連事務総長ウ・タントの大失策に乗じ、ゴラン高原、東エルサレム、旧市街、ガザ地区、ヨルダン西岸、シナイ半島を 6日間で占拠した。
1982年にはベイルートに侵攻、PLO (パレスティナ解放機構)を駆逐した。



しかしすでにイスラエルの後退は始まっていた。
エジプトは1973年にシナイ半島西部を、さらに 5年後には半島全体を奪還。
80、90年代にはパレスティナ・ゲリラの襲撃によりイスラエル軍はレバノンを撤退、さらにインティファーダにより和平と引き換えに領土の提供を余儀なくされた。
2000年、ゴラン高原の 99% をシリアに返還し、ヨルダン川西岸の 95%、ガザ地区、東エルサレムをパレスティナに割譲するとのバラク首相の提案を、アサドとアラファトは拒否した。



仮に受理されたとして、今後さらなる要求をされない保証がどこにある?
イスラエル側の譲歩を吟味したうえで、アラブは中東から 「シオニストの存在自体」を放逐するつもりかもしれぬのに。
イスラエルは真摯に和平を申し出ているのに、アラブはイスラエルが保護下にあるのをいいことに自分たちの有利に交渉を進めようとしている。
戦いをやめ交渉の席についた者になぜ不信感を抱くのか。
戦えばタカうほど手に入る領土が増えるとでも?



そう、アラブ的観点では戦いこそが物をいう。
第四次中東戦争でシナイ半島を、ヒズボラの聖戦 (ジハード) ではレバノンを明け渡させ、インティファーダでは西岸、ガザ、東エルサレムのほぼ全域割譲を申し入れさせた。
すでにイスラエルは軍事力ではいかんともしがたいところまで追い込まれている。
かつて西洋がそうであったように。
ロシアの 2万基の核兵器が東欧、バルト諸国、その他多数の国を失うのを防いでくれたか?



イスラエルと西洋は類似している。
ひとたび栄え君臨した国家や文明はあとは勢力を失い、これまで統治下に置いてきた人民に平等を提案するしかないのか。
それが受け容れられたら今度はかつての被支配層が権力を握り、繁栄、君臨することになるのか。
現在の諸国平等時代は歴史の終焉?
それとも単なるⅠ位休戦、まやかしの和平――西洋が貢がれる側から貢ぐ側へと変わる過渡期――に過ぎないのか。
英国の歴史家フルードは 「ある信仰のために命を捨ててもかまわないという 10人は、ある信仰のために票を投じてもいいという 20人を意のままにできる」 と言った。
アメリカ、アジア、ヨーロッパ、中東のなかで、最も命を賭しそうな民族はどこにいる?



誰もが説く人類みな平等思想は気ままな自己欺瞞なのか。
今の状況は新たな戦いの序曲に過ぎず、豊かだが滅かけている西洋、20世紀の大殺戮に嫌悪を催しはじめた西洋は負けると運命づけられているのだろうか。
ソフォクレスが言ったように、人は黄昏て初めて若き日の素晴らしさ知る。
今が西洋の黄昏なのか。



好戦、殉教、それに不寛容の 3つが、新たに頭角を現わす宗教の特徴だ。
ローマの神々に祈りを捧げるくらいなら死んだほうがましだという初期クリスチャンたちは、まもなくローマ多神教を叩き潰した――平等の機会など与えずに。
フランク王国初代国王クローヴィスのカトリック改宗時、洗礼を授けたランス司教は 「汝、頭をたれよ。汝の崇めるものを焼き払い、汝の焼き払うものを崇めよ!」 と言った。
プロテスタントの君主もカトリックの王も、異端者の処罰には微塵のためらいも見せなかった。
世界を制するキリスト教は腰抜け宗教にあらず。
すべての宗教は平等にあらず。
真実は一つ、それ以外はすべからく誤り。
彼らはそう信じていた。



それが今や、教会の説教壇から聞こえる話は過去の罪を悔いるものばかりだ。
「私たちは過ちを犯しました。
征服者の側につき、土着民に信仰を押しつけ、帝国の家臣となる過ちを。
今ここに私たちと私たちの祖先の犯した罪を告解し、赦しを請うものとします」



はたしてその告解が天国へと通ずるのか、はたまた地獄へ通ずるのか。
いつまでも鳴きやまぬ犬が蹴られるのだと歴史は教えてくれる。
何世紀も前の贖罪を延々と語る僧侶の説く宗教に誰が改宗するというのか。
今頃になって誤られた人々が謝罪に満足し、過去は水に流そうと言ってくれるとでも?
あるいあ 「昔はわれわれを迫害、搾取し続けたこのキリスト教徒たちも、今や罪悪寒にまみれ抵抗力もまるでない。今こそ反撃のとき」 とでも言われるか。



こうしたキリスト教支配に対する悔悟の念は、彼らの倫理規範が一段高くなったことを意味するのか、それとも単にキリスト教絶対信仰が損なわれている表れなのか。
西洋は長生きしようと思ったら、若き日の闘争心を取り戻さねばならない。
あぜなら国家や宗教は支配するかされるか、二つに一つのものだからだ。
平等は果てしない闘争過程でんお一時停戦に過ぎない。
「人間は人間にとって狼である」 とローマの喜劇作家プラウトゥスは言い、トーマス・ホップズはこう付け足した。
「人間は絶え間なく権力を追い求め、その欲求は死によってのみ途絶える」 と。



豊かな現代国家イスラエルが過去の不満を抱えた窮乏国に囲まれているように、栄華を極めた現代文明圏、西洋もおまた、過去の不満にくすぶる近隣窮乏国に囲まれている。
そして西洋の知識層が西洋史を容赦なく糾弾するように、イスラエルの 「ポスト・シオニスト」 は祖国誕生をあしざまに罵る。
西洋があらゆる国の満足を願うように、一部のイスラエル人も、パレスティナ人が自治区で満足に暮らせることを願っている。
だが、なぜその必要がある?
現在ロシアの 10倍の人口を擁する中国が 20倍になったとき、かつて奪われたものを返せと要求するに決まっているではないか。



  
いやあ、中国はずぅ~っと前から、明朝時代とかならともかく、中国も制覇したモンゴル人のモンゴル帝国 (朝鮮半島~東ヨーロッパまでという広大な領土) のものまで 「返せ」 どころか、「ここは俺のものだ!」 と、チベットやウィグルや台湾をせしめて、それだけでは満足せず、ニセモノの歴史を作って、モンゴルでさえ叶わなかった日本まで!!


IS (イスラム国) も、1300年くらい昔のイスラム帝国 (主にスンニ派ウマイヤ朝: パキスタン~スペインまでという広大な領地) を再興するんだと、これまた 「返せ」 どころか 「ここは俺のものだ!」 とやってますねぇ・・・


共に、チベット仏教のお寺や経本などの貴重な文化遺産を破壊し尽したり、古代ギリシアやローマやキリスト教の建造物を破壊し尽したりしているのを見ると、ひょっとして DNA が同じかな? なんて思ってしまいますw




イスラエルが死をも恐れぬ闘士に満ちたイスラム勢力に対峙する一方、アメリカは 2000マイルに及ぶ国境地帯をメキシコと分け合っている。
つまり厳密には類似しているとは言えないのかもしれない。
が、アメリカはもはや昔アメリカではない。
1953年、アイクと呼ばれるドライな老兵は、川を渡って合衆国に不法入国する 「ウェットバック」 を一掃せよと命じたものだ。
しかしすでに 500万人から 1000万人にまで膨れ上がった不法移民を、果たしてブッシュ大統領が追放しようとするだろうか?


その後、オバマ大統領は、そういう人たちにも 「アメリカ市民権」 を与えることにしましたね。
トランプ氏が大統領になったら大幅に変わるかもしれませんが、ヒラリー女史だとオバマ継承でしょう。



元イスラエル首相ゴウルダ・メイアは、イスラエルにとってリチャード・ニクソン以上の友はいないと言った。
祖国を第四次中東戦争から救ってくれたのは彼だと。
だが私の知るかぎり、ニクソンは時代の趨勢の見えぬ男ではない。
「政治家は長期的展望を持たねば」 が口癖だった。
ある日サンクレメンテの別荘で 六日間戦争以来の友人ラビンとの電話を終えた彼に、私の妻シェリーがイスラエルの今後の見通しはどうかと尋ねた。



「長期的にかい?」



ニクソンはそう言って親指を立てた右手の拳を突き出すと、グラディエーターに判決を下すローマ皇帝よろしく、くるりと親指を下に向けた。
私は西洋の見通しは訊かずにおいた。

          ◇


目 次
(
http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2016-08-15 )

日本版まえがき
序として

第一章 西洋の遺言
第二章 子供たちはどこへ消えた?
第三章 改革要項
第四章 セラピー大国はこうして生まれた
第五章 大量移民が西洋屋敷に住む日
第六章 国土回復運動
レコンキスタ
第七章 新たな歴史を書き込め
第八章 非キリスト教化されるアメリカ
第九章 怯える多数派
第十章 分断された国家
著者あとがき
監訳者解説



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