MEGADETH ~ Dystopir (2015.10.16 公開)
MEGADETH 『DYSTOPIR』 (2016.01.22)
(Amazon )
パトリック・J・ブキャナン著/河内隆弥訳
超大国の自殺
―アメリカは2025年まで生き延びるか?―
2012年11月5日発行 幻冬舎
訳者あとがき より
(1) e pluribus unum
= Out of Many, One (多数でできた一つ)
アメリカ合衆国の国章
これは 1776年の建国の父たちが築いた国家の標語 (モットー) で、アメリカ合衆国の国璽 (こくじ) の 「鷲」 のリボンに書かれている言葉である。
かつてこの言葉は、多様性を標榜する米国民の 「統合」 を表象する言葉であり、アメリカの多様性は 「強さ」 のあらわれとされていたが、ブキャナンは、今日、「Many」 はいるものの、「One」 はどこにいるのか、と嘆いている。
(2) Globalization (グローバリゼーション)
2000年、合衆国の収支は余剰を示していた。
2009年は 1 兆 4千億ドルの赤字である。
国家債務は GDP の 100% ともなり、ワイマール型のインフレーションの前兆となっている。
2番目のアメリカの世紀となるはずだった 21 世紀の最初の 10年、新たな雇用の創出はゼロだった。
二人のブッシュとクリントンは 3人ともグローバリズムの信奉者だった。
NAFTA と WTO のもと関税を撤廃し、中国のアメリカ市場に対する無制限のアクセスを許した。
これが自由貿易の果実だった、とブキャナンは指摘する。
同時にグローバリゼーションは格差社会を生み、アメリカはすでに、税額控除、フード・スタンプ (食糧費補助) などの受給資格社会となり、社会主義国・アメリカとなってしまった。
アメリカ政府はいまや 3ドルの税収に対し 5ドルを支出している。
(3) Christian America (キリスト教国アメリカ)
オバマ大統領は就任にあたって、アメリカがキリスト教国であるという見方を拒否した。
西暦紀元前、紀元後の BC (ビフォー・クライスト)、AD (アンノ・ドミニ=主の時代) のかわりに、BCE (ビフォー・ザ・コモン・エラ=共有の時代の前) とCE (コモン・エラ=共有の時代) をつかうべきと主張するものが増えている。
世界史の句読点としてのキリストとキリスト教を排除しようという動きである。
カソリックは、教皇ピオ 12世 (在位、1939 ― 1958年) の時代に大躍進を遂げたが、その後継者、ヨハネ 23世が召集した、1870年の法王の無謬性 (むびょうせい=間違いがないこと) を定めた第一公会議以来の第二バチカン公会議で、急進的な司祭たちがカソリックの 「近代化」 を図って以来、衰退の過程に入った。
妊娠中絶、同性婚姻はみなこの延長線上にあり、少子化をもたらした。
第 2 章 キリスト教国アメリカの死
( 1) 序文
(http://natsunokoibito.blog.fc2.com/blog-entry-1617.html )
( 2) キリスト教衰亡の指標
(http://natsunokoibito.blog.fc2.com/blog-entry-1619.html )
(4) White America (白いアメリカ、白人のアメリカ)
2010年の国政調査は、アメリカの白人は 2041 年を以って少数派に転じるだろうと告げる。
2001 年以降アメリカで生まれる子どもはみな、ヨーロッパよりもずっと第三世界的になっている世代に属することとなる。
いま、アメリカのエリートの反応の一つとして、あるものは白人としてのアイデンティティを棄てようとしている。
ものすごく得するから、「黒人になりたい」、とひそかに望む子どもたちもいるらしい。
「メキシコは国境で終わっていない。メキシコ人のいるところはメキシコなのだ」、とメキシコのカルデロン大統領は発言した。
合法・非合法な形で合衆国に入国する移民は年間 125万人である。
この国勢調査局の数字から計算される 2060年の総人口は 4億 6800万人である。
そのうちの 1 億 500万人は移民とその子どもたちとなるだろう。
その数字はほとんどの移民の故郷である、いまのメキシコの総人口に匹敵する。
「カリフォルニアはアメリカの州 (ステート) であり続けるが、それはまたアメリカの状態 (ステート) でもある」 ようだ。
カリフォルニアはすべての先行指標となる。
英語の住民は州人口の 40% で着実に下降している。
カリフォルニアは世界第 8位の経済圏を誇るものの、いまや第三世界の様相を呈しており、債権のレーティングは最低である。
◆ 収まらないな慰安婦問題は
(http://natsunokoibito.blog.fc2.com/blog-entry-430.html )
10 年ごとに行われる米国勢調査の結果によると、1990年からの 10年で、アジア系米国人の人口は倍増に迫る勢いを示した。
グローバル化の進展の中で、今や米国への移民は 1 世のうちに成功をつかむことが可能になっている。
中国やインドの爆発的な経済成長がそれを後押ししている。
その結果、 米社会に同化した 2世、3世になってようやく豊かさを得るというこれまでのパターンではなく、移民社会が本国とのつながりを強く残したまま膨張を続けるという新しい現象がみられるようになった。
慰安婦問題で日本政府非難決議を主導したホンダ議員と親しいという、丸顔男もそれにあてはまる。
だが、日本はこの変化と攻勢になすすべもないのだ。
(5) Demography (人口統計ないし人口動態)
旧植民地からの有色人種によるヨーロッパの征服はうまく進んできている。
そのうしろには待機組が並んでおり、さらにそのうしろには列が続く。
※ 今現在、IS 難民問題が起きていますね。
今世紀半ばにおける人口の多い10カ国を上から列挙すると、インド、中国、合衆国、インドネシア、パキスタン、ナイジェリア、ブラジル、バングラデシュ、コンゴ共和国、エチオピアで、5つがアジア、3つがサブ・サハラのアフリカ、1 つがラテン・アメリカである。
合衆国が唯一先進国であるが、2050年には前述のとおり、すでに第三世界的になっているだろう。
そのときの米国総人口のうち、54% のルーツはアジア、アフリカ、ラテン・アメリカだろう。
OECD 諸国の人口再生産率は現在の人口水準維持に必要なレベルの 3分の 2に満たない。
とくに日本、韓国、イスラエルが深刻である。
アメリカ国内でもユダヤ人は 「絶滅危惧種」 である。
イスラエルの人口 750万人のうち 80% がユダヤ人だが、マイノリティであるアラブ人の成長度の方がずっと速い。
国連の人口推計によれば、周囲のイスラム 4カ国、ヨルダン、シリア、サウジ・アラビア、エジプトの人口合計は、1967年の約 3000万人から、2050年には約 1 億 2000万人になるものと見られる。
ロシアの人口予測も悲観的である。
現在の 1 億 4000万人は、2050年には 1 億 800万人を切るものと予想される。
ロシアが直面するもう一つの危機は国内イスラム教徒の急速な増加である。
2040年にはロシアに住むものの半分がマホメッドを信仰するものとなるだろうと推測するものもある。
またロシアは 2050年までに自国領土を管理するに充分な人手を持たないだろうとも言われている。
2050年、ロシアは依然中国の 2倍の面積を支配しているだろうが、人口は中国の 10分の 1 以下になっている。
中国自体も、その 「一人っ子」 政策によって高齢化は免れず、2050年の総人口 14億人のうち、60歳以上の人口は 4億 4000万人を数えるものと見られる。
(6) Equality (平等)
建国の父たちは、民主主義を、多様性を、平等を信じていたわけではない。
かれらが信じる平等とは、唯一、神の与え賜うた 「権利の」 平等をいう。
ジェファーソンの 「すべての人間は平等につくられている」 という言葉は、イギリスからの 「独立」 宣言であることを忘れてはならない。
誕生のときからアメリカは自由の味方だった。
一方、エガリテ (平等) はフランス革命の標語だった。
アメリカが平等のために戦うことはなかった。
リンカーンは、白人優位が、アメリカの 「白人の大多数の一般感覚」 である、と言い、自身でその感覚を持っていた。
そして 「すべての人間が天与の権利について平等であるとしても、天与の才能については平等ではない」 と述べている。
自由と平等は両立しない。
自由市場、自由競争が平等の配分に失敗したとき、平等を達成する唯一の方法は、国家権力を以って強制的に、所得、影響力、報酬、富を人々にワケ与えることである。
これは社会主義にほかならない。
過去半世紀、数兆ドルが公共教育に注ぎ込まれた。
そのほとんどは人種のギャップを狭めることを目的にしていた。
しかしそのことで試験点数の差が縮まることはなかった。
アメリカは福祉のマンモスのような国をつくりあげたが、貧困ライン以下のものの数値は 40年前から下げ止まっており、国民の半数は所得税を払っておらず、有能な10分の 1 の国民が、税の重荷の4分の 3を担っている。
(7) Diversity (多様性)
アメリカの偉大さはその多様性にある、という言い方がいまファッショナブルとされる。
現代アメリカ人は、本当に多様性を歓迎しているのだろうか?
それならばなぜ、アメリカ人の多くが自分たちで、別々に分かれて暮らしているのだろうか?
アメリカ人は所得と人種で自ら分裂しはじめているだけでなく、社会的価値観と政治的信念でも分かれつつある。
とはいえ、1861年のように、州が脱退することは不可能であるし、アメリカ人は、それぞれ、自分たちの人種とアイデンティティにひきこもることも出来ない。
しかし、民族の多様化がコミュニティの緊張を増し、社会の分解を促進する要素になっている、というリスクにリーダーたちはまだ気づいていないようだ。
驚くべきことに、多様性は、大企業、大学、政府機関、最高裁判所にいたるまでの国家目標と考えられている。
アイゼンハワー時代のアメリカは欧州系キリスト教徒を中核とした 1 億 6千万人の国で、すべて自前の文化を持っていた。
その頃アメリカ人は国民だった。
2050年、あらゆる信仰、文化、肌の色、世界中から集まった 4億 3500万人の 「ごった煮」 が、どうすれば 1 つにまとまるのだろう?
(8) Tribalism (部族主義)
ないし、Ethnonationalism (民族ナショナリズム)
ブキャナンはこの本で、ナショナリズム (国家主義) という言葉よりはるかに泥臭く、国民国家を超えたところにある概念、トライバリズム (部族主義) ないしエスノナショナリズム (民族ナショナリズム) を持ち出す。
これは血液と同族意識による揺るぎない絆を意味し、21 世紀の多民族国家の成否の鍵となる。
西洋は自身の歴史を読み誤り、そこから間違った教訓を引き出した ― 二度の大戦はナショナリズムが惹き起こした、そのため戦後西欧諸国は国際機関の網の目を紡ぎ、その一つが EU である、と。
しかしそうではない。
民族ナショナリズムの諸国家がつくり出され、民族の集団的混在が避けられたことが戦後の安定と平和の基盤にある。
チェコスロバキア、ソ連邦、ユーゴスラビアという民族混在の国家群は、共産党一党支配という警察力で統合が維持されていたが、結局解体された。
その後、部族主義は世界のあちらこちらで燃え拡がっている。
アジア、中東、アフリカ、ラテン・アメリカ、そしてヨーロッパも例外ではない。
世界はバルカン化の時代に入っている。
ヨーロッパでは集団移民が、住民を自身の政府から離間させている。
移民は地元住民の民族意識を揺さぶり、ポピュリスト政治家に目を向けさせる。
「極右」 が台頭しているという事実上の警告を無視することの方がよほど危険なのである。
アメリカではいまアジア系と白人が主役のマジョリティだが、半世紀経てばこれらはマイノリティとなる。
そのとき、マジョリティの人種・民族が投票権を駆使して、マイノリティの財産を取り上げる政治家を選ぶだろう。
これは実際、いまカリフォルニアのアジア人と白人に起こっていることである。
かれら中産階級と富裕層は前例のない高い税金を払わせられているのである。
一部 、ブキャナンとても 「刷り込み」 史観の例外ではない、と残念に思う点がある。
(私註; 日本史に関する部分。日本は海外発信力がいかに弱いかを改めて思いました)
◆ 文明の衝突 : 欧州連合 (EU) 20年。そろそろホコロビが・・・
(http://natsunokoibito.blog.fc2.com/blog-entry-1056.html )
(9) GOP (グランド・オールド・パーティ=共和党)
共和党は必ずしもそうでなかったにせよ、まずまず白人の党だった。
ニューディール以前までは民主党が白人の党だった。
共和党がリンカーンと奴隷解放の党であったとき、民主党は人種隔離の党であり、黒人の支持はほとんどゼロだった。
これを変えたのはフランクリン・ルーズベルトである。
1964年の公民権法と、バリー・ゴールドウォーターの大統領候補指名で、黒人のリンカーンの党に対する忠誠は終わりを告げた。
白人票は共和党の命綱を握っているが、1976年、投票者の89% だった白人は、2008年には 74% に下がっていた。
国境を開放する移民政策を共和党が支持したことがその基盤を相対的に小さくした。
圧倒的に民主党に投票する有色人種有権者は増え続けている。
2010年のように共和党に追い風が吹く選挙があっても、民主党が安心して勝てる選挙区は増え続けている。
2010年は共和党にとって小春日和に過ぎなかったのか。
アメリカh神のもとの一つの国家であり続けたい、と願う気持はまだみなが持っている。
住民投票の行われた 31 州のすべてで同性婚は否定された。
人種、民族、性別の特別待遇を否定するウォード・コナリーの 「公民権運動」 は、投票にかけられたところでは 1 州を除いて勝った。
英語の公用語化はすべての州で否定され、不法移民に対する福祉の制限は、ほとんどすべてで圧倒的に支持された。
民主党のバルカン化もはじまっている。
黒人とヒスパニックは必ずしも利害が一致しておらず、今後政府の規模の縮小が国益となってアメリカが耐乏生活時代に突入すると、民主党の存在意義が脅かされる事態が出現する。
何が与えられるかよりも、何が削られるかが問題となってくると、民主党を形づくる諸部族がたがいに戦う局面に入るのである。
アメリカは緩慢な後退の局面に入っている。
その対外政策が弁済不能の状態に陥っていることを示すこともこの本のテーマの一つである。
アメリカはここ 60年で引き受けてきたコミットメントの軍事的裏付けをもう持っていない。
IOU (債務証書) のいくつかの履行をいますぐ迫られると、その戦略的破産が世界中にばれてしまう、と日米 「安全」 保障体制の当時国としては聞き捨てならない科白も飛び出してきている。
しかし、ブキャナンの提示するアメリカ病の処方箋は、地道なものである。
要は、小さな政府への転換による財政再建、日米・米韓の軍事同盟破棄、NATO 脱退などの、コミットメント廃止である。
日、韓、西欧諸国は自身で防衛能力をすでに備えている。
しかしその実現は世界の枠組みを大きく帰ることとなるだろう。
―― 日本を守るのに何故「日本からカネを借りなければならないのか?
―― 中国からは、なぜカネを借りてまで中国製品を買わなければならないのか?
―― イラク、アフガニスタンの即時撤兵、本当に守らなければならないのは不法移民を許すべきではないメキシコ国
境ではないのか?
ブキャナンの舌鋒は鋭い。
もっぱら好奇心で、何が書いてあるのか徒然なるまま PC 入力をしていた翻訳が陽の目を浴びることになったのは、一にかかって、畏友で評論家の西尾幹二氏の情熱溢れる後押しとご紹介、および読書離れによる出版不況? にもかかわらず、それを受けていただいた幻冬舎のご英断の賜物である。
とくに同社の志儀保博氏には素人原稿の編集で大変お世話になった。
お二人に深く感謝する次第である。
西尾氏は、訳者の小石川高校、昭和 29年卒業、E 組のクラスメートである。
原作者、ブキャナン氏からも、簡明に日本の問題点を綴る 「日本語版への序文」 を頂戴した。
有難うございました。
また日がな一日、同じ姿勢で PC の前に座り込みながら頭痛、腰痛などを訴える訳者の体調を気づかってくれた妻にも一応の 「成果」 を見せることが出来た。
平成 24年 10月 河内 隆弥
◆ 意外なところから 「フランクフルト学派」 を理解する (^^;
(http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2015-12-16 )
☆ 片岡義男著 『音楽風景』 より
☆ ワッツの暴動
☆ ブラックパンサー党
◆ 超大国の自殺
★ 国家とは何ぞや?
(http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2015-12-20 )
★ 超大国の自殺 ☆ 概要 (上)
(http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2015-12-20-1 )
★ 超大国の自殺 ☆ 概要 (下)
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◆ ここでもう一度、フランクフルト学派 (トロイの木馬革命)
(http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2015-12-21-1 )
第6章 平等か、自由か?
( 1) 建国の父たちの信じていたもの
( 2) アメリカは平等に関心を持っていたか?
( 3) マディソン氏の沈黙
( 4) 「われわれは・・・かれらを平等にはあつかえない」
( 5) 平等について――昔と今
1963年 ― 「自由の鐘をならせ」
1965年 ― 「自由だけでは充分ではない」
( 6) 「不平等こそ自然である」
( 7) ドードー
( 8) 試験の点数を平等に
( 9) 試験成績における世界のギャップ
(10) 異端者の火刑
(11) 政治的兵器としての平等
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◆ 超大国の自殺 ☆ 概要 (下)
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