「政教一致」に反発 揺れるロシア正教会
2012.04.24
(http://sankei.jp.msn.com/world/news/120424/erp12042412050004-n1.htm)
ロシア人の多数派を信者とするロシア正教会をめぐり、スキャンダルや批判が相次いでいる。
これに反発する正教会の最高位、キリル総主教(65)が
リベラル勢力による教会への「攻撃」を非難し、
信者に「防衛」を呼びかける異例の事態ともなった。
根底には、
ソ連崩壊後にめざましく復興した正教会が
政権と密着する「政教一致」の度を強め、
それが一部の反政権機運と相まって反発を招いていることがある。
正教のクリスマスで儀式を執り行う
ロシア正教会の最高位、キリル総主教
=2012年1月6日、ロシア・首都モスクワ(ロイター)
■信者に防衛呼びかけ
モスクワにあるロシア正教会の総本山、救世主キリスト大聖堂の周辺は
4月22日、祈祷(きとう)集会に参加する6万5000人(警察発表)の信者で埋め尽くされた。
正教会の最高会議が今月(4月)発した「布告」で、
「信仰と冒涜(ぼうとく)された聖物、教会の防衛」を目的に呼びかけたものだった。
「われわれは今、迫害者の攻撃にさらされている」。
キリル総主教は祈祷集会でこう述べ、
「その危険性は、
〔冒涜(ぼうとく)行為〕を
〔現代社会が保護すべき合法的な自由の表れ〕と
〔みなすよう求められている〕ことにある」
などと訴えた。
前出の「布告」でも、やはり「反教会勢力」や「攻撃的リベラリズム」を非難していた。
総主教の言う「攻撃」の皮切りとなったのは
2月、覆面女性らの反政権パンク・バンド「プッシー・ライオット」(子猫の暴動)が
救世主キリスト大聖堂に乱入し、「パンクの祈り」と称するゲリラ演奏を敢行した“事件”だ。
女性らは聖母に
ウラジーミル・プーチン首相(59)=前・次期大統領=の排除を“祈願”して
逃走したものの、うち3人が暴力行為の容疑で逮捕された。
3人のうち2人には幼児がおり、有罪なら最大で禁固7年となる可能性がある。
この一件をめぐっては、キリル総主教が
「神に対する許されざる冒涜だ」と3人を激しく非難したのに対し、
一部聖職者がメディア上で「譴責(けんせき)だけで十分」と述べるなど
社会を二分する論争に発展。
3人の釈放を求める署名運動も起きている。
救世主キリスト大寺院内で、反プーチンのゲリラライブを敢行した
「プッシー・ライオット」の3人=2月21日(タス=共同)
■免税特権で荒稼ぎ?
最近はまた、キリル総主教の所有するモスクワ中心部の高級アパートが
隣室の修繕工事に伴う「ほこり」で被害を受けたとし、
裁判所が隣室側に1900万ルーブル(約5239万円)もの支払いを命じる
不可解な判決を下したことが発覚。
リベラル紙の「ノーバヤ・ガゼータ」は
キリル氏が総主教に就く前の1990年代、
教会の免税特権を悪用してたばこを横流しするなど副業で荒稼ぎしていた
と報じ、正教会批判を強めた。
正教会を追放された改革派聖職者で、元下院議員のグレプ・ヤクーニン氏(78)は、
先の女性パンク・バンドを「愚か者だ」と切り捨てる一方、
「これも(教会に対する)抗議機運の表れだ」と指摘。
一連の批判は政権と教会が接近を進めた結果であり、
キリル氏が「信仰の防衛」を訴えたことについては「ヒステリックだ」と話す。
■路線継続なら分裂も
共産主義の「無神論」から解き放たれたロシア正教会は
ソ連崩壊後に目覚ましく発展し、今やロシアの最大宗教として確固たる地位を占める。
ただ、これに伴って正教会は、
憲法で政教分離を定める新制ロシアにあって、
国家権力と密着する帝政時代の伝統まで蘇(よみがえ)らせた。
政権としては、
正教会との関係を密にすることで人口の6割ともされる信者の支持を期待でき、
正教側は
政権の庇護を自らの勢力拡大に役立てられるとの思惑からだ。
正教会は
学校での宗教教育や軍への聖職者配置を訴えるなど、政治・社会への関与を強めており、
2010年には
正教会がソ連時代に接収された資産の返還を請求できるとする法も成立した。
3月の大統領選に先立っては、キリル総主教が
プーチン氏による前回大統領期からの12年間にわたる統治を「神の奇跡」と称賛し、
プーチン支持を露骨に表明した。
ただ、昨年末以降はモスクワなど都市部で反政権機運がくすぶっており、
正教会は政権支持を明確にすることで“危険な賭け”に出ているとの見方もある。
前出のヤクーニン氏は
「権力と協力することが自らのイメージを損なうということを正教会は理解していない」
とし、
「キリル総主教が現在の路線を続ければ正教会は分裂する可能性もある」
と警告する。(モスクワ支局 遠藤良介)
【Russia_Watch】
4月22日、「布告」に応じて救世主キリスト大聖堂の周辺の集まった
6万5000人(警察発表)の信者を前に
「聖物、教会の防衛」を訴えたロシア正教のキリル総主教(壇上右端)。
背景の建物はクレムリン=ロシア・首都モスクワ(AP)
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