一筆啓誅 NHK殿
(1) 感動した三月十一日放送の歌劇『古事記』
(http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2012-06-18-1)
『正論』2012年5月号より
一筆啓誅 NHK殿
皇學館大学非常勤講師
本間一誠
若い世代のために再放送すべし
プロローグ、観世銕之丞の語りはかうである。
「これが我らの創世の物語
どれほど心をこめ、愛に満ちて国を造られたことか
愛こそが全てを包む
愛こそが天地創造の礎
愛こそが・・・
時は流れ来て、時は流れ去る
未来へと寄せては返す波
波は語る
この世が消え去らうとも
いつか必ず太古の時はよみがへる」
ここには作曲者である黛氏の神話観が簡潔に凝縮されてをり、日本神話における天地創造の原理が端的に「愛」といふ言葉で表現されてゐる。
超越的に君臨する絶対神が被造物を創つたのではなく、イザナギ、イザナミの男女二柱の神がその愛によつて次々に国土と八百万の神々を産み成し、やがて実に長い悠久の時と苦闘を経て、その「愛」の結実として日本といふ国が生まれる。
神話に深く刻まれた民族の核心の記憶を喪はない限り、移ろふ時を越えて、永遠に太古の時は甦り続け、時は循環し、日本は日本として在る。
プロローグの語りはそのやうに言つてゐるやうだ。
四年近く前、高校生を引率して女優浅野温子さんの「語り舞台-日本神話への誘ひ」を聴かせたことがあつた。
上演されたのはスサノヲの件りだつた。
後に提出させた生徒の感想文が甚だ愉快だつた。
当時の彼らの感想はこんな風である。
「浅野さんの言葉の力が演奏とみごとに溶け合って、ぐんぐん神話の世界に引っ張られていった。語りの言葉が想像力をかきたて、特にヤマタノオロチを切る情景は臨場感があった。ぞくぞくするような怖さもあったが、涙が出そうで困ったほどの感動もあった」
「日本の神話というと何となく堅苦しい、また暗いイメージがあった。どうせあまり面白くないのではと思ったが、この語り舞台を体験して全然イメージが変わった。神話は面白い。こういう読み方もできるんだと思って改めて日本の神話に興味を持った」
「日本の神話から、命の繋がりを大事にするとか、自分を犠牲にしても家族を思いやる情愛を貫く強さを教えられた。果たして自分にそういうことができるだろうかと反省させられた」
「『沢山の命が繋がり、こうして守られてきた自分の命を自ら絶つ事は許されない』という言葉が最も強く印象に残った。堅苦しそうに見えて、実は神話には豊かなものがいっぱい湛えられているのだと気づいた」
などなど。
本物を見せれば忽ち若者はこのやうに反応してくれる。
彼らは実は日本人としての自らの根がどこに繋がってゐるのか知りたいのだ。
きちんとした形で神話を教へられてゐない日本の子供達は不幸である。
神話や歴史伝統は先験的に我々に与へられてゐる「賜物」(ガブリエル・マルセル)であつて、言はばその恩寵にどう正しく応へるかといふ所に人間存在の高貴さが懸かつてゐる。
だとするなら、難しい抽象思弁の言葉で説明するより、まづはこのやうな最適の教材を見せて神話に親しませるに如くはない。
NHKは若い世代のために、百害ある反日番組は止めてかういふ番組をこそ、Eテレなどで再放送すべきである。
『「日本人は何を考えてきたのか」に見る恣意』に続く
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(1458) 一筆啓誅 NHK殿(2)若い世代のために再放送すべし
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