【失ったものの大きさ】
麻生太郎 2009年5月29日 ベネズエラ/ラミレス・エネルギー石油大臣
根幹問題に向き合わない政権党
防衛大学校名誉教授・佐瀬昌盛
2011年1月5日
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110106/plc11010614340063-n1.htm.
■根幹問題に向き合わない政権党
民主党政権下で二度目の新年である。
この間、私の目に映ったこの政権党の最大の特徴は予想通り、「根幹には触れない」政治姿勢にあった。
4年前、野党だった民主党が参院選で大勝、安倍晋三政権を退陣に追い込んだとき、私は本欄に「参院選勝ち組に告ぐ」を書き、国政の根幹中の根幹の憲法改正問題や安保問題に触れず、「ロー・ポリティクス」、つまりは「日常政治」ばかりを争点に仕立てた姿勢を疑問視した。
民主党はしかし、その後もこの選挙戦法に徹し、一昨年の衆院選で大勝、昨年の参院選では大敗した。
「根幹には触れない」のは民主党の変更不能な性格なのか、それとも、その矯正は可能なのか。そのいずれであるかによって、日本の今後は大きく影響される。
◆背骨なき変幻自在の軟体動物
一口に「根幹」といっても、
(1)政党の「根幹」
(2)国家・国政の「根幹」
の二種ある。
民主党には「根幹」たる党綱領がない。
いわば背骨がないから本来の姿が国民の目に見えない。
一種の軟体動物で、TPOで姿は変わる。
便利といえば便利だが、騙される危険が大きい。
戦後66年、わが国主要政党でこんな存在はなかった。
民主党は55年体制下の自民党、社会党、民社党の各系統と若干の新参勢力の合体で生まれた。
既存勢力は自分の姿を示す党綱領を重視、中でも社会党は三度の飯より綱領論争が好きだった。
だから民主党が党綱領を論じないのは一見不思議だ。
が、実のところ、結党前の出自の違いが障害となり今も綱領一本化を妨げているのだ。
世評を気にしてか、菅直人首相は昨年末、党綱領策定の検討を党内に指示した。
が、可能だとしても難航するだろう。
政権獲得後に党綱領制定とは天下の珍ともいうべき逆手順であるうえ、軟体動物でも政権を獲れたのだから、今さら背骨など不要という日常便宜主義が巻き返す可能性が大きい。
(2)の国家・国政の「根幹」に関しても、議論回避が民主党流である。
憲法問題がいい例だ。
民主党大敗となった昨夏の参院選が白熱していたとき、時の枝野幸男幹事長は選挙用マニフェストに憲法改正問題が欠落している理由を問われると、各党が自己主張に走り、「主張の押し合いになって(衆参両院での3分の2以上という)合意形成につながらない」と答えた。
挙げ句、憲法改正は「喫緊の課題ではない」と逃げた。
◆日本ならぬ二本の民主党
政権党として奇怪な態度だ。
参院選マニフェストで憲法改正問題に沈黙したのは、民主党だけなのだ。
念のためにいうと、自民党や既存諸党はいわずもがな、群小の新参戦組の全員が憲法改正問題で意思表示をしていたのである。
政権に遠かった6、7年前の民主党は「創憲」を掛け声に結構活発に憲法論議をやり、平成16年には「憲法提言中間報告」、17年には「憲法提言」を発表、19年には憲法改正に関する国民投票法案修正案を衆院に提出した。
が、政権が射程内に入るや動きはそこで止まり、政権の座に就くと、憲法改正は「喫緊に非ず」となった。
鳩山由紀夫、枝野幸男、仙谷由人と憲法論客には事欠かなかったのに、なぜそうなったか。
党綱領と同様、憲法問題でも本当のところは党内がまとまらないのだ。
改憲反対派ないし消極派は、弁は立たずとも数はいる。
かつて「日本社会党」が「二本社会党」と揶揄されたように、国の根幹たる憲法問題で、「日本の民主党」は「二本の民主党」なのだ。
「ハイ・ポリティクス」の安保防衛領域でも、「根幹」を論じる姿勢がない。
これも前に本欄で指摘したが、一昨年の衆院選で民主党は威勢良く「対等の日米同盟関係」を呼号した。
だが、その実、根幹の日米安保条約にはまるで触れなかった。
代わりに、枝協定たる「地位協定」改定には熱心に言及した。
防衛の根幹的な二法、すなわち「防衛省設置法」および「自衛隊法」に至っては、議論がないどころか、政権党指導者自身がそもそも目を通していなかったらしいことが昨秋に判明した。
武士の情けでそれ以上書かない。
◆小さな尻尾にも振り回され
自民、自公政権も、国家・国政の「根幹」問題直視という点で不徹底ではあった。
だが、一点で民主党とは明確に違った。
対社会党ないし対社民党関係がそれだ。
なるほど、自民党はかつて自社政権を組み、あろうことか社会党委員長を首相に担いだ。
すると、村山富市首相は一夜にして「日米安保肯定、自衛隊合憲」論に転じた。
自民党路線に屈服したのだ。
今、数合わせに焦る民主党政権は、「村山以前」の旧社会党路線に立ち戻った社民党に、またまた色目を使い、この小さな尻尾に振り回されようとしている。
根幹問題に正面から向き合う姿勢の欠如がここに痛ましいまでにさらけ出されている。
根幹の問題を考えない政権党はいつなんどき再「迷走」するやもしれぬ。
いや、再「迷走」は始まっているのかも。(させ まさもり)