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◆ (75) 第十章 ⑥ 政治 (l) 歴史教育

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METALLICA ~ Murder One

商品の詳細
METALLICA
HARDWIRED... TO SELF-DESTRUCT』 (2016.11.18)

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パトリック・J・ブキャナン著
宮崎哲弥監訳
病むアメリカ、滅びゆく西洋
2002年12月5日 成甲書房

第十章 分断された国家



(6) 政治 (l)

歴史教育




若い世代は自国の歴史に驚くほど無知だ。

テストの結果にも表れている。

これは悲劇であると同時に危険でもある。

最高裁は
公立学校での宗教教育を禁じることはできても
歴史教育を禁じることはできない。

教師と父兄は適切な教科書を選定し、
どの学年でも必ずアメリカ史を教えるよう取り計らうこと。

わが国の歴史に比肩する歴史を持つ国はない。

世界中がそう認識しているのだ――
われわれが知らなくてどうする。

歴史に夢中になる子は愛国心ある人間に育つ。



政府は優秀な歴史家を集め、
アメリカ史に関する大統領諮問委員会を設置すること。

目的は――
あまりにぶざまな若者の知識欠如に対する
国民の注意喚起及び、歴史の生涯学習推進奨励。

この歴史プロジェクトは緊急声明として発表されるべきである。

スプートニク・ショックを受けて
アイゼンハワー政権が
科学・基礎研究拡大に取り組んだように。



「全米綴り字競技会」 に倣って 「全米歴史競技会」 を開催すれば、
多くの子供たちが歴史の習得に情熱を傾けるだろう。

歴史に通じれば通じるほど、過去を糾弾する人々の矛盾も暴きやすくなる。

子供たちにとって大事なことは、
過去への扉はいつでも開け放たれているということ。

尽きせぬ魅惑の詰まった壮大なる世界が。



サラトガでの英軍降伏後、友人から、
米国喪失は英国に荒廃をもたらす
と憂う手紙を受け取ったアダム・スミスは
「国家に荒廃はつきもの」 と応じた。

偉大なる国家は敗北にも手足の切断にもめげずに前進する
と言っているのだ。

1777年、イギリス帝国の行く手にはまだまだ洋々たる前途が待っていた。

トラファルガーからワーテルロー、ダンケルク、ブリテンの戦いまで。



ところで、現時点での西洋復活の見込みは?



率直に言って見通しは暗い。

西洋人は 5世紀も前に始まった壮大な悲劇の終幕を演じているかのようだ。

正教派とローマカトリックに二分され、宗教改革に粉砕されはしたものの、
キリスト教は欧州を飛び出し世界を制した。

ところが 18世紀、その本家本元の欧州で
キリスト教とその文化・政治規範に対する過激な攻撃が始まる。

ヴォルテールは手紙の最後を必ずこう締めくくった
――「忌まわしきものを一掃せよ!」――
教会のことだ。

「腸に最後の僧侶を抱える最後の王が絞め殺されるまで
人類は自由にはなれない」 とディドロは断言した。

「人間は自由なものとして生まれたが、
至るところで鎖につながれている」 とルソーは言った。



フランス人民はこうした三流文士の教えを奉じ、君主制が打破された。

ルイ 16世、マリー・アントワネット、貴族は断頭台の露と消え、
教会は追い立てられ略奪された。

信仰に対する理性の勝利が
9月虐殺、
恐怖政治、
ロベルピエールの独裁、
ボナパルトの帝政
を生み、四半世紀に渡る欧州大戦に突入したフランスが
かつての統一性と卓越性を取り戻すことは二度となかった。



やがてダーウィンが登場して進化説を唱え、
マルクスが宗教は 「人民のアヘン」 だとのたまい、
ニーチェが果敢にも議論をまとめ結論に導いた ――
「神は死んだ・・・われわれが殺した」 と。

そして 『カラマーゾフの兄弟』 のアリューシャは言った。

神が死んだらすべての罪が赦 (ゆる) される、と。

しかし同時にもう一つの結論に行きつく
―― もしも神が死んでいるなら ――
キリスト教は僧侶の太鼓持ちに権能を与えるためのペテンに過ぎず、
長いこと人間の尊厳と進歩を蹂躙 (じゅうりん) し続けてきたこの宗教は
速やかに撲滅されるべきである。

キリスト教さえ一掃されれば、
われわれは科学と理性に従い、
かつて目にしたこともない至高の世界を
この地上に構築できる ―― と。



けれどキリスト教が西洋を生み、
西洋社会の土台となっているとしたら、
この土台の死を
西洋は乗り越えられるだろうか?

「歴史上、宗教の助けなしにモラルを維持できた社会の例は
見当たらない」 と、ウィル・デュラントは指摘する。

ベロックのエピグラムに
「信仰はヨーロッパなり。ヨーロッパは信仰なり」
というのがある。

だがその信仰が死んだとしたら、
われわれは何に依拠すればよいのか。

モラルの根源はなんなのか。

西洋を西洋たらしめる特質、
西洋諸国を結ぶ絆 (きずな) とは?



民族連帯、と答える向きもあろう。

しかし過去 500年間の欧州の歴史は
果てしない殺し合いの歴史でもある。

しかもその間、西洋文明・文化を敵対視する一大勢力が
内部から生まれた。

さらに人種の坩堝 (るつぼ) アメリカは明日の欧州の姿でもある。



リンカーンは、人民は 「記憶の琴線」 でつながっていると説いた。

が、英国、フランス、あるいはポーランド人に訊いてみるといい、
ドイツ人やロシア人と 「記憶の琴線」 を共有しているかと。

米国には
自国史を栄華の歴史と見る者もあれば、
恥ずべき極悪非道の歴史と切り捨てる者もいる。

そして米欧ともにかつて隷属させた諸国民に門戸を開放している現状では、
記憶の琴線は統一よりむしろ分断を招くだろう。



民主主義は結果を促すすばらしい思想に思える。

われわれの依拠する民主主義、自由市場、アメリカ的価値観――。

しかしこれにも期待できない。

大多数の米国人は他国の政治に関心が薄い。

ごく一般的な民主主義理念だけでは西洋団結はおぼつかない。

民主主義とは知性に訴える概念であって、
心を揺さぶるものではない。

家族、仲間、信仰、自由、国家のためには闘っても、
民主主義のために闘う者がいるだろうか。

対日戦で撃墜され副操縦士を失い洋上を漂いながら
「政教分離」について考えたというジョージ・ブッシュに
聴衆は拍手を送った。

仮に明日、インドかフランス、イタリア、ブラジルあたりで
クーデターが起こったとして、
多数の米兵の命を犠牲にしても鎮圧に駆けつけるべきだという米国人が
いったい何人いるだろうか。



民主主義思想では事足りない。

イェーツは正しかった ――
ひとたび信仰が消えると、
「すべてがばらばらになり、中心も吹き飛ぶ」。

つまり西洋もまた、あらゆる文明同様、
神に定められた死期を迎えたということなのだろう。

今さら処方箋を出しても新たな治療法を試みても無駄だ。

手の施しようがない。

このまま信仰心の復活がなければ、
あとは残った人々がそれぞれの人生をまっとうしておしまいだ。



冷戦にはきっと勝てる、誰もがそう信じていた。

たいていは敵の脆弱さにも、
支配者の冷酷さが無意味な体制を覆い隠しているだけだという事実にも
気づかず、1989年に突如瓦解するとは夢にも思わなかったが、
それでも堅忍不抜の意志と統率力さえあれば
必ずや勝てると確信していた。



ところがレーニン主義の果たせなかった夢を文化革命が受け継いだ。

共産主義は倒れる二世代前にすでに勢いを失ったいたが
文化革命は依然勢力を増している。

だがこの革命を民主主義の力だけで打倒するのは不可能だ。

なぜなら民主主義は、
新エリート・新宗教・新秩序による民主主義変容を目指すイデオロギーの
前には手も足も出ないから。

というより実は、民主主義は革命を促進する
―― マルクーゼらが熟知していたように。

ヒトラーは民主的精神を煽ることによりいかに大衆を取り込めるかを実証した。

1939年、エリオットはこう指摘している ――

   何度も言うが、「民主主義」 というものに
   敵を排除する決定的要素は含まれていない
   ―― その中身は敵の手でいかようにも変えられる。

神を信じないというなら (神は不信仰を許さない)、
ヒトラーやスターリンでも敬うがいい。



ひとたび社会を制したイデオロギーを駆逐できるのは、
それを超える権力かイデオロギーのみである。

信仰を打ち負かすには信仰を持たねばならない。

キリスト教以外に西洋の信仰といえるものがあるだろうか?

再びエリオットから。

   「政治哲学は倫理学に由来し、
   倫理学は宗教の真理に由来する。

   この永遠の真理の源に回帰することによってのみ、
   現実の本質的側面を黙殺することのない社会を期待できる」。



だが、キリスト教がすでに魅力を失い、「選択技でもない」 としたら、
革命はどこまでも加速する一方だ。

半世紀前にシリル・コノリーが書いたとおり、
そろそろ [
西洋庭の閉館時刻」 なのだ。



アメリカは自己矛盾に陥っている。

地上最強にしてどこよりも機会と活力に満ちた国。

世界一恵まれた国民。

その科学時術、医学は人類羨望の的だ。

なかには
若いころには存在しなかった外科技術、装置、魔法の薬のおかげで
生き延びている人もいる。

ありがたいことだ。

その粗野な振る舞い、堕ちた文化、精神の病は
もはや否定のしようもないが、
それでもやはりこの国は
戦うに値する最後の期待の星である。



棺に腰かけ、
ヴァージニアの田舎道を馬車に揺られて処刑場に向かいながら、
奴隷制廃止論者ジョン・ブラウンは 「美しい国だ」 と囁いた。

そう、今も変わらず美しい。

だからこそわれわれはこの国を取り戻さずにはいられない。


          ◇


目 次
(
http://hawkmoon269.blog.so-net.ne.jp/2016-08-15 )

日本版まえがき
序として

第一章 西洋の遺言
第二章 子供たちはどこへ消えた?
第三章 改革要項
第四章 セラピー大国はこうして生まれた
第五章 大量移民が西洋屋敷に住む日
第六章 国土回復運動
 (レコンキスタ
第七章 新たな歴史を書き込め
第八章 非キリスト教化されるアメリカ
第九章 怯える多数派
第十章 分断された国家
著者あとがき
監訳者解説


  


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