橋下徹大阪市長『施政方針演説』
2011.12.28
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/111228/waf11122814430023-n1.htm
(1)「知事時代はあえて議論を呼び起こす発信をした」
11月27日の大阪ダブル選で当選した大阪市の橋下徹市長は28日午後、就任後初めてとなる市議会本会議に臨み、施政方針演説を行った。
《午後2時前、議場に入場した橋下市長は、黒いスーツにネクタイ姿。
特に緊張した様子はなく、議長席に向かって軽く一礼し、席に着いた。
机上の資料を整理しながら静かに時間を待つ橋下氏。
午後2時過ぎ、議長から発言を許されると、背筋を伸ばして立ち上がり壇上に向かい、演説を始めた》
「お、お許しをいただきまして市長就任のごあいさつを申し上げ、市政運営の考え方について、その一端を述べさせていただきます」
《初めての本会議でやや緊張したのか、冒頭言葉を詰まらせた》
「この度あたたかいみなさんの支持をいただき、第19代大阪市長に就任しました。
平松(邦夫)前市長はこの4年間、大阪市民と向き合い、寄り添ってきました。
それが今回獲得された52万票に結びついたのだと思います。
まずこのことを重く受け止めたいと考えています。
平松前市長と大阪市役所が築いてこられた市民に身近な市政を目指すという精神、260万人の代表としてこのことをしっかり引き継いでいきます」
「3年9カ月、私は880万府民の代表として府庁という大きな組織を動かしてきました。
市役所ではそこで学んだことを礎にして生きたいと考えています」
「知事時代は対外的なアピール力を重視し、トップダウンで走り出すことや、あえて議論を呼び起こすための発信をすることが多くありました。
これが有効に機能した面もある一方で、振り返ると府庁をフル稼働させるまでには至らなかった点も多々あったと感じています」
《橋下市長は用意した文章を読みながら、落ち着いた表情で普段より、ゆっくりとした口調で演説を続ける》
(2)「府民、市民不在の不毛な縄張り争い」に終止符
《100席以上の傍聴席がほぼ埋まった“満員御礼”の大阪市議会。
議員や傍聴者は橋下徹市長の施政方針演説に聞き入る。
熱弁をふるう橋下市長は11月27日の選挙後の民意を受け、府市一体となった行政運営にエネルギーを注いでいく意向を改めて宣言した》
「選挙で大阪市民のみなさんは『大阪を変える』『大阪を変えない』の選択で、『変える』ことを選択しました。
私は民意を受けて、府庁と市役所の間にあった見えない壁、一体的発展を阻害してきた壁を取り払うことから、まずは始めたいと思います」
「これまでは市民、府民不在の不毛な縄張り争いで大阪のパワーが分断されてきました。
大阪の力が満ちあふれていた高度成長時代はこれで良かったかもしれませんが、熾烈(しれつ)な都市間競争にさらされている今の時代では、このままだと日本、アジアの中で大阪の存在感が下がる一方ではないでしょうか。
アジアとの競争に向かう今、大阪のパワーを分断させてはいけません。
これが私の危機感です。
私に与えられた使命は大阪を再生させることです。
明治、大正、昭和と続いてきた府市100年戦争に松井一郎大阪府知事とともに終止符を打ちます」
《大阪市と大阪府が分断状況からの脱却を強く訴える橋下市長。演説にも力がこもる》
「大阪市民の意向を受け、私は大阪に新しい自治の仕組みを作り、大阪から日本を変えていくことに取り組みます」
「まずは広域行政にあたる大阪府と基礎行政にあたる大阪市の役割分担を明確にします。
そして、民間でできることは民間に任せます」
《橋下市長は、選挙期間や市長就任記者会見を通じて訴えてきた内容を改めて議会で述べた。
何度も話した中身なので詰まることもなかった》
(3)「地下鉄やバスを抱える必要は全くない」
《当初は落ち着いた表情で演説していた橋下徹市長だが、徐々に気持ちが高揚してきたのか、時折厳しい口調で言い放つ場面が目立つようになった》
「広域行政の大阪府との役割分担を進め、整理していきます。
そして広域行政については制度上の政令市の権限がどうであれ、大阪全体の代表者である松井(一郎)知事の考えを重く受け止めます。
その政治的な決定権は知事にあります。
広域行政に関する決定権は知事にあるということを市の職員に肝に銘じてもらいたいと思っています。
直接の指揮、人事権を持つ市長だけでなく、大阪市民も一票を投じて選んだ知事を尊重してもらいたいんです」
《演説は再び知事時代のエピソードになり、ますます“橋下節”が強くなる》
「私自身が知事時代、メディアを通じて市役所の幹部が、まあ、知事に対していろんな酷評をしてきました。
正当な批判ならいいのですが、公務員の範疇(はんちゅう)を超えるような批判も多々ありました。
知事は市民の代表でもあり、府民の代表であります。
市役所と府庁は役所的には、別組織なのかもしれませんが、日本の民主主義、民主的統制の下では、知事の政治的決定に市役所が従うのが当然のことであります」
《これまで務めてきた知事の在り方を繰り返し強調した》
「ただし、広域行政に限るということでありまして、基礎自治に関することは市長が独自に決定していきますが、全体にかかわることは知事の決定を重く受け止めるという認識を大阪市役所の職員に厳に認識してもらうよう組織マネジメントをしていきます」
「これらを実現するために昨日、松井一郎知事が本部長、私が副本部長という府市統合本部を設置いたしました。
これからはこの場が知事と市長の意思決定と合同司令塔の機能を果たします。
そして府への広域行政の一元化などを行います」
「大阪の成長のため、広域行政の本来の役割、仕事をいかに法律的、効果的に配分できるかを、ゼロベースで考え、決断して参ります。
その結果、大阪市は市民の暮らしを守る基礎自治体の本来の役割に徹し、無駄をなくし、スリム化を図ることができると考えています」
《続いて橋下市長は地下鉄とバスの民営化などについて構想を語り始めた》
「地下鉄やバスなどは行政で抱え込む必要は全くありません。
民間に任せること、新たな経営軸を作っていくことも視野に入れています。
また、大阪、関西の成長を牽引(けんいん)するようなまちづくりは、広域行政が大きなグランドデザインを示すべきです。
このたび国際総合戦略特区に選ばれた「うめきた」や夢洲や咲洲(大阪市内の人工島)のまちづくりなどについても、府と調整を進め、戦略を一本化していきます。
そして新たな大都市制度の確立に向け、大阪府と市、堺市との首長で構成する協議会を立ち上げたいと考えています」
「(来年)2月にはその設置条例案を提案できるよう準備を進めます。
この協議会で真摯(しんし)な議論を重ね、国や地方制度調査会などに働きかけを行い、大阪にふさわしい自治の仕組みの実現を目指します」
(4)「既得権の破壊が私の使命」
《橋下徹市長(42)の施政方針演説が続く。
10分を超え、声もややかすれ気味になるが、依然として力のこもった演説が議場に響き渡る。
大阪の動きに呼応する動きが国政でも始まった状況について述べる》
「国の方でもさまざまな動きが激しくなり、地方のことは地方で決めるという究極の地方分権の法律が制定されようとしています。
これに乗り遅れないよう、大阪が先導して議論を引っ張っていきたいと考えています」
《関西広域連合への加入についても態度を明確にする》
「エネルギー対策やインフラ整備では関西広域での対応が必要です。
関西広域連合は発足後1年がたちますが、大きな成果を上げています。
府との連携を図りながら、関西広域連合への早期加入を目指します。
入らない理由は何もありません。
あとは市役所サイド、議会の決断だけです」
《施政方針演説でいきなり議会側に“ボール”を投げつける橋下市長。
激しい議論が今後予想される議会との関係で主導権を握りたい思惑がうかがえる。
一方、議会側からはやじが出ることもなく、議員たちは静かに聞き入っているようだ。
次に橋下市長は従来行政に切り込む意向を改めて口にする》
「大阪市民へのサービスを図るために、区長に予算や人事の権限を与え、区民のためにしっかり働いてもらいます。
市役所各局は市長の補助組織ですが、区長の補助組織にもなります。
区長には私と同じ思いを抱く人を全国から公募しますが、身分保障は与えません。
成果が上がらなければ罷免もあります。
まさに公務員の絶対的身分保障への挑戦でもあります」
「住民サービスの展開では、これまでのやり方を徹底して変えます。
特定の団体や市民への補助やサービス提供が続けられ、既得権となって固定化していましたが、選挙で市民はこれに『NO』を突きつけました。
真摯に受け止め、あるべき姿としてサービスを必要とする人にサービスが届くようにすることが基本です。
既得権を破壊することが私に与えられた使命だと思っております」
《有権者に選ばれた自らの使命感を強調する橋下市長。
声のトーンも強くなり、さらに続ける》
「事業運営ではその成果を常に検証します。
市民生活に貢献していないと判断すれば、効果が見込めないとして執行を止めにかかります」
「民間でできることは民間に任せることを徹底させます。
民間にお金を回すことによって地域経済の活性化や雇用の創出につながっていくという効果も期待できます。
役所が抱えてきた仕事を民間に開放することも使命と考えます」
《「小さな政府」をほうふつとさせる橋下市長の改革像が浮かび上がる。
その思いは国の未来像にまで及ぶ》
「今日の日本が抱えているさまざまな課題の根底にあるのは、国と地方の間の『無責任なもたれあい』の構図です。
国は地方のやることすべてに口を出し、地方は何でもかんでも国に頼り切りの状態です。
現在の地方交付税制度はその元凶です。
国の仕事は国の財布で。地方の仕事は地方の財布でやる。
権限と財源と責任の所在を一致させる。
あいまいな国と地方の融合ではなく、分離。
これが目指すべき『国のかたち』だと考えています」
「まずは危機感を持つことです。
古い制度やシステムを捨て去り、創造性やイノベーションで社会を立て直す。
まさに今、大阪で、この『グレート・リセット』が起きようとしています。
ぜひとも、またとない、このチャンスをものにしなければなりません」
《橋下市長は興奮した様子で一気に自らの思いを訴えた》
(5完)「私はしつこい 組合問題は執念燃やす」
《橋下徹市長の演説は終盤にさしかかり「最後に」と語気を強め、改めて「政治と行政」の関係について力説した》
「今回の(大阪ダブル選での)市民、府民の選択は『大阪の仕組みそのものを変えてほしい』という選択です。
政治にはこの結果を真正面から受け止め、それを実行していく責任があります」
「そもそも、選挙で選ばれる政治家は、民意や時代の流れを読み取り、大きな政治的決断を行うことがその役割です。
ただし、そこから生じる責任は、自らが取らなければなりません。
一方、行政は公平性、継続性、安定性を保ち、専門知識をもとに、着実な行政執行を至上命題としております。
政治と行政が役割分担を認識した上で、徹底した対話と議論を行うことが重要だと考えております」
《さらに語気を強める橋下市長は“本題”に入った》
「政治家でもある私に対して、行政マンである市役所職員には、行政的な視点からどんどん意見してもらいたいと考えておりますが、市役所職員が民意を語ることは許しません。
そして、徹底した議論の上、私が下した政治決断には、行政組織の持てる力を結集してその実現に努めてほしいと考えております。
さらに、市役所の組合問題にも執念を燃やして取り組んでいきたいと考えております。
市役所の組合体質はやはり、おかしいと率直に感じます。
庁舎内での政治活動は許されません」
《組合問題は続き、組合で政治活動をした職員に対して叱りつけるように演説を続けた》
「先日、公の施設内で政治活動が行われたことについて市民に対して謝罪を求めたところ、組合は謝罪文1枚で済まそうとしています。
市民感覚とかけ離れております。
あいさつやしつけをしっかりと子供のときにしてこなかった子供は、ろくでもない大人になります。
今の市役所の組合はあいさつすらできない状況だと思っています」
《その後はいったん都構想の実現に向けた話に戻ったものの、再び組合問題に言及した》
「私自身は非常にしつこい性格でありまして、もう一言、組合について述べさせてもらいたいと思うのですが、大阪市役所の組合の体質というものが、今の全国の公務員の組合の体質の象徴だと思っています」
《こう言い切った橋下市長に対し、傍聴席から笑いが漏れた。
文章を用意していたが、ほとんど紙に目をやることなく熱弁をふるい続けた》
「ギリシャを見てください。
公務員と公務員の組合をのさばらせておくと国が破綻してしまいます。
ですから、大阪市役所の組合を徹底的に市民感覚に合うように是正、改善していくことによって、日本全国の公務員の組合を改めていく、そのことにしか日本の再生の道はないと思っております。
大阪都構想と組合の是正、これによって日本再生を果たしていきたいと思っております」
《議場から拍手がわき起こり、約25分に及ぶ演説を終えた橋下市長。
表情を和らげ、静かに席に戻った》
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(1286) 橋下徹大阪市長『施政方針演説』全文
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