「尖閣」危機
中国の触手は覇権主義の表れだ
防衛大学校名誉教授: 佐瀬昌盛
2012.06.06
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120606/plc12060603300007-n1.htm
日本固有の領土である尖閣に、中国の触手が伸びている。
わが国の対応はどうあるべきか。
尖閣の領土保全に向けて万策を巡らすべきである。
いまそれを怠ると、
沖縄の-本島も含めて-他の島嶼(とうしょ)に向けても
第二、第三の触手が伸びてくる公算が大きい。
≪対中「ムチの品揃え」図れ≫
巡らすべき「万策」は当然、多角的、かつ複合的でなければならない。
中国が尖閣獲得を狙っているからといって、
一から十まで
それに対抗策で臨むのは賢明でないし、必要でもない。
要するに、「アメとムチ」の両策を持つべきなのだ。
ただし、
日中国交正常化から40年の
両国関係史を見れば分かるが、
日本の対中政策は
ほとんど「ムチ」抜きに終始した。
だから、いま必要なのは
両要素の不均衡是正であり、
「ムチの品揃(しなぞろ)え」を図ることだ。
アメの品揃えは豊富で、それらは近年、「戦略的互恵」なる美しい包装紙にくるまれてきた。
他面、出番がなかったムチには、それを束ねる総称も忘れられてきた。
実は適切な総称が昔からあるというのに-。
「覇権反対」がそれだ。
40年前、日中国交回復時の共同声明で両国は
「アジア・太平洋地域において覇権を求めるべきでなく」云々(うんぬん)
と謳(うた)い、第三国の覇権追求にも反対した。
その6年後には中国の執念を容(い)れて、日中平和友好条約第3条にその旨が明記された。
この「反覇権」を今日の中国に対するムチの総称にすべきだ。
尖閣に向けられた中国の触手は
北京の覇権主義の表れにほかならないからである。
「反覇権」の仮想対象は時代につれて変わった。
それもあってか、同条項は近年、とんと出番がない。
早い話、言い出しっぺだった中国がそれに言及しなくなった。
それもそのはず、中国自身が「アジア・太平洋地域」での覇権を求めているからだ。
この地域の諸国を代表して、日本は今日、総称として「反覇権」を中国に迫るべきである。
それを「メガホン外交」でやる必要はないが、
両国首脳間外交の場では
忘れず釘(くぎ)を刺(さ)さねばならない。
≪武力攻撃レベル以下に対応を≫
静かに整えるべき具体的対抗措置としては、
尖閣は無論、一般に南西諸島に向けられる武力攻撃への
反撃能力の増強、
そして
海上保安庁の領域監視・警備態勢の強化
である。
重要なのは
防衛行動と
警察的活動の
間に
隙間を残さないことだ。
一昨年の中国漁船による体当たり事件後に本欄で指摘したことだが、
尖閣に対する中国の触手が
初手から武力攻撃レベルで伸びてくると考えるのは浅はか。
それ以下のレベルで繰り返される公算が小さくないのだ。
自民、民主を問わず日本の歴代政権は、
尖閣防衛で
米国に日米安保条約第5条の発動、
つまり
共同防衛行動を期待するところ大だが、
これは虫が良過ぎる。
武力攻撃レベル以下の触手では
第5条発動はないし、
武力攻撃の場合でも
肝心の日本に
自主防衛の覚悟と用意が欠けては、
米国は日本共同防衛行動に出ないだろう。
その覚悟と用意にとり重要なのは、
尖閣での
防衛行動と警察活動の間に切れ目を生まないことである。
2年半前の「防衛計画の大綱」で採用された
「動的防衛力」構想は
まさに南西海域重視の産物で、
今年の日米外交防衛当局の「2プラス2」、
5月初めの日米首脳会談でも言及、確認された。
「大綱」では
「動的防衛力」による「迅速かつシームレス」な対応が
強調された。
だが、
その「シームレス」は
自衛隊と
海上保安庁の
任務および活動の間の「シームレス」にまでは
及んでいない。
海域では
自衛隊と海保の近接活動が常態ではないのだから、
そこに「シームレス」状態を求めるならば、
両者の任務・活動に
どうしても相互乗り入れの重合部分を設ける必要がある。
その法整備を急げ。
≪機先制した都知事の購入構想≫
さて、尖閣に向けての中国の触手が
-武力攻撃レベル、それ以下のレベルのいずれにせよ-
いつも物理的な領域侵害として伸びてくると考えるのは、おめでた過ぎる。
朝日新聞は、
石原慎太郎東京都知事が唱えた都による尖閣3島購入構想を
「無責任」と非難したが、
同紙は
都ではなく中国人が3島地権者に「島を買いたい」と持ちかける事態など
想像したこともないのだろう。
そういう話が実際にあったかどうかは別だ。
が、現実に中国は沖縄でもその種の話題を提供している。
だから、都知事の構想には
中国の機先を制した側面がある。
中国人が尖閣3島の地権者となり、
中国人が上陸、住み始めたら
どうするのだ。
都知事提案をきっかけに、
日本は
領土保全という断念不能の国益の見地に立って、
外国人による土地購入に
厳しい制限を設けるべき時期にきている。
領土保全とは
軍事力、警察力を手段とするだけでは
期し難い営みなのだ。
ソフトな要素にも目を向けなければならない。
尖閣はそのことを教えている。(させ まさもり)
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(1444)ムチの品ぞろえを (防衛大学校名誉教授:佐瀬昌盛)
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